平和な日常~冬~

その頃、タマモとさよとハニワ兵の三人は一緒にお風呂に入っていた。


「気持ちいいですね。 身体があるって本当に幸せです」

程よい温かさの湯舟に肩までしっかりと浸かるさよとタマモの隣では、ハニワ兵がプカプカと湯舟に浮いている。

一応ハニワ兵も肩まで浸かってはいるが、ハニワ兵サイズのタオルを器用に頭に載せて寛ぐ姿はおもちゃにしか見えない。

さよに関しては夏休み直前に横島が実体化して以降は久しぶりの身体のある生活を満喫しているが、中でもお気に入りなのが食べることとお風呂だった。

基本的に横島は夜も店を営業しているので普段はタマモとさよとハニワ兵で一緒にお風呂に入る機会が多いが、最近はハニワ兵が通販で購入した温泉の素や入浴剤を入れるの定番である。


「またみんなでおおきなおふろにいきたいね!」

「そうね。 露天風呂は気持ち良かったもんね」

この日は別府温泉の素を使って別府に行った気分に浸っているが、例によってタマモは別府がどこかとか当然分かってない。


「どうせならよこしまも、いっしょにおふろにはいれればいいのに……」

そんなタマモが最近密かな不満なのは、横島とさよが揃って一緒に入ってくれないことだ。

タマモは以前家族ならば一緒のお風呂に入ると教えてもらったので、横島とさよが別々にお風呂に入るのが納得がいかないようなのである。


「流石に恥ずかしいんですよ。 家族と言っても年頃の男性ですから」

日頃タマモの願いはほとんど叶えてあげてる横島やさよもこの件ばかりは素直に叶えてあげれるはずもなく、普通は男女別々に入るものなのだとも教えているが、同時に家族ならば一緒に入ることもあると聞くとタマモ的には一緒がいいと思うようなのだ。

そもそもタマモの価値観は男女の関係についてさほど成熟してる訳ではないので、何故さよや木乃香達が横島と一緒にお風呂に入らないかイマイチ納得してない。


「むずかしい」

なんとかさよの気持ちを理解しようと頭を捻るタマモだが、流石に男女の微妙な価値観を理解するのは無理があった。


「私は幽霊ですからね。 もしかしたら恥ずかしがる必要はないのかも知れませんけど」

一方のさよは自分が幽霊だと自覚しており、心の何処かで横島やタマモ達とは住む世界が違うのだと思っている。

それと同時に横島やタマモやハニワ兵を大切な家族だとさよ自身も思ってはいるが、それだけではなく単純に異性として横島に惹かれ始めている事実に本人はまだ気付いてない。

幽霊として家族として女の子としての複雑な気持ちや立場が絡み合うさよが、自身の気持ちや立場をきちんと消化するにはまだまだ時間が必要だった。

そしてさよは自身の魂や霊体が、普通では有り得ないスピードで安定している事実にも当然気付いてない。

さよがいろいろ悩んだりするようになった原因もこの安定が影響にある。

元々さよの実体化は横島の術であり属性的には神族の力と術になるので、さよの魂や霊体が安定するのは当然の結果だった。

しかも幼いとはいえ金毛白面九尾のタマモとも一緒にいるさよが影響を受けないはずはない。


「そろそろ上がりましょっか。 今日はお風呂上がりのデザートはりんごなんですよ」

「うん、あがろう」

少しの間それぞれ考え込んでいたタマモとさよだが、それはそれとして現状が幸せなのに影響はなく冷たいデザートを食べるのを楽しみにお風呂から上がっていく。



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