平和な日常~春~

「そういえば、麻帆良祭が近いんだってな。 二人はなんかするんか?」

明日菜がテストに悩む最中、横島は木乃香達に麻帆良祭の事を尋ねていた

はっきり言うと店の営業は木乃香次第だと言える

この店は基本的に調理場所はフロアとは別の厨房にある為、店内が混雑すると横島一人では無理だった

厨房からフロアへの出入口にはカウンターがあり、飲み物やごく簡単な調理はそちらで可能なのだがそこだけでは不便なのだ


「クラスはまだ決まってないんやけど、占い研究会と図書館探険部はイベントするみたいや。 横島さんの店もあるし今年は忙しいわ~」

「私は特に何もないわよ。 美術部だし前に描いた絵を展示するくらいかな。 店の営業大丈夫なの? 期間中はかなり混むわよ」

木乃香と明日菜の予定を聞きながら横島は腕を組み、麻帆良祭期間中どうするか悩んでいた


「そこを考えてるんだよな~ あんまり混むなら疲れるから休もうかと思ってさ」

「うわ、めっちゃ後ろ向きな考え方ね。 でも麻帆良祭期間中に休む飲食店なんてあるのかしら?」

「ないと思うわ~ でも営業するなら臨時にバイトが何人か必要やね」

麻帆良祭は麻帆良の飲食店ならば誰もが気合いが入る一番の書き入れ時なのだが、儲けるという感覚のない横島の考えは後ろ向きだった

加えて木乃香に負担をかけてまで金儲けをしたいなど全く思ってない


「せっかくのお祭りだし、休んで観光でもするさ」

木乃香の予定が思った以上に忙しい事から横島は早々に店を休むことを決めるが、木乃香と明日菜は微妙な表情である

元々収支が疑わしい店なのに、何故休むのか理解に苦しむようだ


「ウチは営業した方がいいと思うんやけど……」

「バイトも募集すれば見つかると思うわよ。 麻帆良祭期間中はバイトする人も多くなるし」

木乃香と明日菜は営業する方向で話をしていくが、横島はあまり乗り気ではないらしく休みたそうな表情である

その後も麻帆良祭の話をしていく横島達だったが、特に話の進展はなくこの日は終わってしまう

元々商売というよりは人との交流を求める横島にとって、麻帆良祭での忙しさは求めるモノと掛け離れたモノだったのだから



「お祭りか~ 昔はよく行ったよな……」

そして夜になり店の営業が終わった横島は、後片付けもせずに一人で酒を飲んでいた

木乃香と明日菜から聞いた麻帆良祭の話から、横島はふと子供の頃を思い出してしまったのだ


「毎年楽しみだったんだよな、あの頃は特に代わり映えのしない普通の夏祭りだったけど……」

お祭りに目を輝かせて語る木乃香と明日菜に、横島は子供の頃の友達を思い出していた

時や世界を越えても根本的には変わらぬ人の世界は、横島にとって懐かしくもあり眩しくもある

そしてこの世界を生きる木乃香や明日菜と、異分子である自分の違いに人知れず壁を感じていた
42/86ページ
スキ