平和な日常~冬~

さてそんなパーティー関連でいろいろあったその日も夜が更けると、刀子とシャークティが訪れていた。

相変わらずたわいもない話をしつつ軽くお酒を飲む二人だったが、この日は暇だった横島も途中から誘われて加わっている。

ついさっきまでは二年だけでなく頼まれた他の学年の期末テストの問題を山かけしていたのだが、どうやら一段落したらしい。


「そういえば宮脇食堂、上手くいってるわね」

横島が加わったことで二人の時と話が少し変わった刀子達だが、シャークティはふと最近まで店に居た伸二を思い出し近況を話し始める。

あれからまだ数日しか過ぎてないが、横島の店の常連達は宮脇食堂の様子が気になり見に行った人が結構居るようで、シャークティと刀子の二人も今日の昼食に行ったらしい。


「ホッとしてますよ。 正直かなり苦労しましたからね」

一度農家のおばあちゃん家に一緒に行った影響か、刀子もシャークティも伸二と顔を見れば挨拶をするくらいには親しくなっていた。

シャークティは刀子ほど店には来てなかったが、二人が来た時には厨房で練習する伸二の料理をよく試食という形で食べて感想を言っていたのだ。

本当にどうなるんだろうというのが大半の常連達の感想だったし、横島も宮脇食堂に行った常連の話を聞くとその度にホッとする気分のようである。


「まあ難しいことはほとんど教えてませんけどね。 それこそ簡単な美味しいご飯の炊き方とかみそ汁の作り方とか、そんなんばっかですよ」

「本当に基礎中の基礎ね」

つい先日までの日々が少し懐かしく感じる横島だったが、伸二との修行の日々は横島にとっても得るモノが多かった。

受け継いだ技術と知識に人間を越える感覚で料理を作る横島にとって、素人同然の伸二へ教えたことは横島自身もいい勉強になっている。

木乃香は僅かな期間で横島と近いレベルで店のメニューを覚えたが、あれは木乃香の基礎が出来ていたことと才能があったからこそだということを横島は伸二との料理修行で学んだのだ。

実のところ伸二の料理の習得スピードは木乃香どころか、のどかよりも遅かった。


「噂が広がって同じような人がまた来たりして……」

「勘弁して下さいよ。 今回だって夕映ちゃん達の作戦がなかったらどうなってたのやら」

結果だけ見れば僅か一ヶ月で潰れそうな店を再建した横島達の手腕は、事情を知る人間は結構評価している。

刀子は同じような依頼がまた横島の元に来るのではと冗談めかして言うが、横島は無理無理と苦笑いを見せて割と本気で否定した。


「流石の貴方も二度は無理よね」

「宮脇さんは事情があったけど、普通の大人なら自分でなんとかするのが筋だもの」

それは刀子としては軽い冗談のつもりだったが、結構本気で否定する横島にシャークティと顔を見合わせて笑ってしまう。

今までお騒がせマスターとしていろいろやった横島だが、この件ばかりは次はないなと刀子とシャークティは理解していた。

本来は大人ならば自分で全て判断して責任を持たねばならないし、それが出来ないならば自営業はやるべきではないのだ。

そういう意味では伸二は本当に幸運だったのだろうと二人は思う。

横島の性格上絶対に次がないとは言い切れないが、それでもよほどの事情でもないと受けないだろうことは明白だった。

まあ結果的に全てが笑い話として酒の肴になったことで、横島のみならず刀子とシャークティも安堵する。

中途半端な同情で失敗して、横島が麻帆良に居づらくなることを二人は密かに心配していたのだから。



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