平和な日常~冬~

そのまま常夏の暖かい風が吹き抜ける中で、横島とエヴァは特にやることもないため囲碁を始めていた。

時間が時間なだけに食事は明日にすることになったため暇だったのだ。

しばらく忙しかった横島は囲碁を打つのは久しぶりだが、相変わらず二人になると会話が少ないまま淡々と碁石を打つ音だけが響く。

しかしエヴァは元気がないというか覇気がない。

ナギへの想いや過去をふっきったエヴァだが、同時にここ数年の生きる目的も失ってしまった。

自由になりたいとの思いは今も強いが、それと同じくらい自由になって何をするのだろうと思う気持ちもある。

エヴァ自身そんな自分の葛藤に答えなどないことは十分理解していたが、一言で言えば何もやる気が起きないだけなのだろう。


「貴様、あの娘をどうするつもりだ? あんなに甘やかして貴様が居なくなった後に生きてゆけるのか?」

そんなエヴァに対して横島は特に何かを語る訳でも尋ねる訳でもなくいつもと変わらぬ様子だったが、この日は意外なことにエヴァから横島に踏み込むような発言をしていた。


「そんなに甘やかしてるつもりはないんだけど。 それに俺から居なくなることはないし」

エヴァが語る娘とはタマモのことだろうが、横島は本心からさほど甘やかしてるつもりはない。

ただエヴァ自身はタマモの将来が気になるらしく、横島に僅かだが不満を抱いてるようである。

そもそも人間の寿命は短く、普通の人間以上に甘やかされてるタマモの将来が心配になるのは当然だろう。

それはエヴァ自身の体験ゆえの心配なのかもしれない。

エヴァの長い人生で彼女を受け入れた人間が全く居なかった訳ではないだろうし、そんな人間と出会い別れて来たのだから。


「貴様はまだ若いから理解してないのかも知れないが、人と人ならざる者は住む世界が違うのだぞ。 私は貴様のような馬鹿な奴を何人も見て来たが、奴らはみんな運命に逆らえずに終わった。 あのサウザンドマスターでさえもな」

互いに目を合わせることもなく淡々と語る横島とエヴァだが、会話の内容は子供を心配する母親のようだった。

今はまだ子供だからいいが、やがて寿命の違いがタマモと木乃香達のような人間を分けるだろう。

それに横島のような人間がどれほど苦労するかは、エヴァの方が理解してるのかもしれない。


「俺さ、実を言うと純粋な人間じゃないんだよね。 元々は普通の人間だったんだけどさ」

横島は日頃他人に踏み込まないエヴァが何故今日踏み込んで来たのか少し気になったが、同時に真剣に自分を諭すエヴァに横島はあっさりと自分が人ではないと明かしてしまう。

隠すべきかとも少し悩んだ横島だが、真剣に話すエヴァにこれ以上隠す必要はないと思った。

何よりこの世界で最強の一人であるエヴァには、気付かれるのが時間の問題だという事情もあるが。


「……そうか」

突然のあっさりとした告白に、エヴァは特に反応もないまま一言返事をしただけだった。

エヴァとてその可能性を考え無かった訳ではない。

年齢に似合わぬ料理や魔法の技術を持つと知った時から、その可能性は十分に考えていたのだ。

ただ誰よりも人間くさい横島の性格を見てると普通の人間の可能性が高いとは思っていたが。



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