平和な日常~冬~

久しぶりに電車に揺られ東京へ行く横島だが、日曜の午後なためか電車は空いている。

少女達が楽しげにおしゃべりしてるのを見ていた横島は、車窓に遠くに見えてくる都心のビルに微かな懐かしさを感じていた。

かつて住んでいた東京の街は良くも悪くも思い入れが深い。

例えそれが似て非なる街であっても故郷に帰るような印象があった。


「そうすれば那波さんはパーティー行かないの?」

一方の少女達は例のパーティーの話で盛り上がっている。

基本的に一般生徒が参加するには抽選による参加権が必要だが、木乃香のように体育祭で活躍した者や麻帆良祭で有名になった者やスペシャリストとして有名な人間は学園招待枠として参加するようだった。

その他には当然協力企業の参加枠などもあり、あやかや千鶴ならば参加は可能なはずである。


「両親からは出来れば参加して欲しいって言われてるけど、私あんまり好きじゃないの」

木乃香を含めた少女達は麻帆良で一番と言われる華麗なパーティーに夢見るようだったが、千鶴の立場からすると楽しめるようなパーティーではないらしい。

両親の仕事や立場もあり行けば挨拶しなければならない人が多いらしく、顔と名前を覚えるだけでも一苦労だったと苦笑いを浮かべている。


「へ~、お金持ちも大変なのね」

「ここだけの話、ちょっとでも態度が悪かったり愛想が悪いと後でいろいろと陰口を叩かれるのよ。 あやかみたいに人前に出ることが気にならない人ならいいけど」

パーティーに夢見る友人達に言うことではないかなとも思う千鶴だったが、正直パーティーを楽しめる立場でないことは事実であり隠す必要はないかとも思うようだ。

基本的に千鶴は那波家の娘として見られるのが好きじゃないらしい。


「そうなんや~ ウチ大丈夫かな」

「いつも通り笑顔でいれば大丈夫よ。 後は下手な約束をしないことかしら? あからさまなナンパはないけど、声をかけて来る男性には気をつけた方がいいわ」

予期せぬ千鶴のパーティー経験談にまるで昼ドラやサスペンスに出て来る金持ちのいがみ合いをイメージする友人達に、千鶴はそこまで酷くはないとは言いつつも楽ではないと語る。

立場的に千鶴に近い木乃香は予想外の話に少し不安そうになるが、千鶴は基本的に笑顔で答えていれば問題ないなど教えていく。

この辺りのパーティーでの対応というか常識は木乃香にはなかったもので、千鶴のアドバイスは木乃香にとって欠かせないものであった。


「マスターが木乃香にちゃんと教えてあげなきゃダメじゃん」

「いや、俺そんなでかいパーティーなんて行ったことねえから知らなかったよ」

いつの間にか千鶴によるパーティーでのマナー講座みたいになってるが、美砂なんかは横島が教えなきゃダメだと言うが横島はそんな常識を知るはずがない。

はっきり言えば横島本人にも横島が継承する魂にも、その手の知識はあまりなかった。

金持ちと言えば令子も入るが、令子はパーティーなんかは義理で参加する以外は行かないし本格的な社交界の経験なんかない。

他のメンバーも似たり寄ったりであり戦闘系の知識や経験ならば事欠かない横島だが、日常生活の経験は結構偏りが多かった。




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