平和な日常~秋~3

同じ頃近右衛門も偶然この件を考えていたが、実は近右衛門は横島が参加しようがしまいがどっちでもよかった。

そもそも近右衛門は両親の意向もあり現時点では木乃香を後継者にするつもりもないし、横島を魔法協会に引き込むつもりもない。

まあ横島に関しては横島から魔法協会に加わりたいと言うならば歓迎するが、やる気のない者を入れても仕方ないのだ。

ただ木乃香の将来に関しては、実のところ近右衛門の本当の本音は両親とは意見が少し違う。

実は近右衛門はいずれ木乃香に魔法協会を継ぐという将来を選択肢に入れて欲しいと思っている。

横島の件と同じく望まぬならば無理にとは言わないが、魔法の存在を教え過去や現状を話して自分達の理想や想いを理解して継ぎたいと願うならば継いで欲しいとは思っていた。


亡き近右衛門の兄や両親の悲願だった東西の魔法協会の統合は、仮に近右衛門の代で統合に成功してもその後半世紀は苦労するだろう。

もし統合が出来なければ更に苦労が増える。

木乃香の両親がそんな苦労を娘にさせたくないと願うのは当然なのだが、近右衛門はもし継いでくれたらこれほど嬉しいことはない。

無論若い木乃香をそのまま魔法協会のトップには出来ないだろうが、東西の掛橋となるには東西の双方と関わりが深くどちらの魔法協会にも所属してない木乃香がピッタリなことは確かだった。


「彼は自由な立場の方が良かろうて」

時間的に外がすっかり暗くなり人気の無くなった魔法協会の本部で一人黙々と仕事をしていた近右衛門は、横島の件に関してふと呟くように言葉を漏らす。

横島と木乃香の行く先は近右衛門にも全く分からないが、どういう形であれ近くに居て助け合う関係で居てほしいと願っている。

そういう意味では横島が中途半端に魔法協会に関わるよりは自由な立場の方が、木乃香がこの先どんな未来を選んでも問題ないだろうと思っていた。

そうすれば仮に木乃香が魔法協会との関わりを望まなくても横島との関係は変わらず幸せになれる気がするのだ。


「少々効き目が強すぎるのが気になるがのう」

近右衛門は横島という存在は少し効き目が強すぎる劇薬に近いと感じていた。

扱い方を間違えると思わぬ怪我をしそうな気がするのは、平々凡々とした横島の中に見える非凡な何かを薄々感じているからだろう。

麻帆良祭での2-Aの活躍に納涼祭の成功や体育祭での木乃香の優勝。

どれも決して横島だけの功績ではないが、その影に横島の姿がちらつくのは確かだった。

仮に横島が居なければそれらの一件があったのかと問われるとない気がした。


「婿殿の言葉も気になるしのう」

加えて近右衛門が少し前から気にしているのは、詠春が横島と木乃香達の出会いはいずれ意味を持つような気がすると冗談混じりに言っていたことだ。

かつて悪ガキだったナギ・スプリングフィールドと共に旅だった若き詠春を思い出すと、有り得ないと一笑に伏すことは出来なかった。


「今のワシに出来ることは、若い未来の選択肢を狭めないことだけじゃな」

孫の未来とこの国の魔法使い達の未来を今も考える近右衛門だが、現状で出来るのは孫の未来を狭めないことだけである。

現状でも横島と木乃香の関係は魔法協会で注目されているが、近右衛門は何も語らぬまま見守るしか出来なかったのだから。



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