平和な日常~秋~3

そしてこの日の夜は近右衛門が店を訪れていた。

夏場はビールや冷酒などを飲んでいた近右衛門も、最近では熱燗やお湯割りを飲む機会が増えている。

この日はアジの干物に自家製の漬物という純和風なつまみで焼酎のお湯割りを飲み始めた。

近右衛門はまずは焼酎を一口飲むと身体に染み渡るようなアルコールに心地よさを感じ、そのまま香ばしく焼けたアジの匂いに食欲をそそられて箸でその身をほぐす。

まだ焼きたてのアジは、ほどよい脂が乗っていて塩味もちょうどいい。

横島は本当に焼いただけなのだがそれで十分だった。


「君は相変わらず甘い物で飲んどるのか? 好きじゃのう」

「好きっていうか余り物なんですよ。 もったいないじゃないっすか」

そんな純和風のお酒を飲んでいる近右衛門だが、同じカウンター席の端では横島が売れ残りのケーキをつまみにスパークリングワインを飲んでいる。

基本的に横島の晩酌のつまみは店の余り物なのだが、一番多いのはやはりスイーツだった。

余り物は木乃香達に持ち帰らせているが、彼女達とて持って帰る物はあまり多くはない。

野菜や肉なんかは次の日の朝食やお昼のお弁当に使えるからいいらしいが、流石にスイーツは毎日持って帰ってまで食べることはしてないようだ。

そうでなくても店で食べる機会が多い木乃香達は、スイーツを持って帰っても寮の友人達に配ることが普通らしい。

いくら美味しくても一日一個以上は食べないようにしようというのが、最近の木乃香達の明確な意思なのである。

やはり太りたくないという思いが強いのだ。

結果的に余ったスイーツは横島達が食べたり、ハニワ兵が異空間アジトのスイーツ好きの仲間に送ったりしていた。


「食べ物を粗末にするなと、昔はきつく教わったもんじゃがな。 君の場合は商売柄難しいところじゃろう」

「そうっすね。 ただ捨てることはないように工夫はしてますよ。 タマモの教育上よくないですし」

そのままマイペースで酒を飲む横島と近右衛門だが、二人の話はいつの間にか食べ物の話に変わっている。

どこか昔を懐かしむような雰囲気が多いのは、横島も近右衛門もそれだけ過去に思い入れがあるからだろう。

ただ横島はタマモや木乃香達の存在もあり、近右衛門ほど老け込んではないが。


「そういえば高畑君も昔はよく悩んどったよ。 訳あってアスナ君を引き取ったんじゃが、彼は料理も洗濯も出来んかったからのう」

淡々と話しを続ける二人の会話の内容はその後も自然なままに流され変わっていくが、横島が特に興味を持ったのは高畑が明日菜を引き取った後の話だった。

近右衛門は高畑の過去には触れないが、子供の頃に孤児になり赤き翼の面々と生きて来た高畑には地味な生活能力が皆無だったらしい。

年配の人に料理を習ったり子育てのアドバイスを貰ったりしながら頑張ったらしいが、失敗も多かったと近右衛門は笑っている。

横島にはあくまでも笑い話としていい思い出だと語る近右衛門だが、あの当時の大変さは今と比べると桁違いだったなと思う。

メガロや他の魔法協会や完全なる世界から明日菜を隠し守ることにしたが、安定してほとぼりが冷めるまでは近右衛門ですらも生きた心地がしなかったのだ。

こうして横島に高畑や明日菜の昔話を笑って語れることが、本当に幸せだと近右衛門は改めて噛み締めながら話を続けていた。


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