平和な日常~春~

その日学園長室を重苦しい空気が支配していた

真剣な高畑の表情に対して近右衛門はのほほんとした表情である


「何故ネギ君を受け入れなかったのですか?」

重苦しい空気を発していたのは主に高畑で、ネギの麻帆良受け入れを断った件について近右衛門に理由を問いただしていたのだ


「ワシはもう若くはない。 これ以上爆弾は抱えきれんのじゃ。 彼に罪はないが、本国の目が麻帆良に向けば困るのは分かっておるじゃろう?」

真剣な表情の高畑にため息をはいた近右衛門は、仕方ないと言わんばかりに理由を口にする

麻帆良には外に漏らせない秘密が多いが、中でも特に問題なのは神楽坂明日菜=アスナ・ウェスペリーナ・テオタナシア・エンテオフュシアの隠匿は最重要問題だった

かつてアスナ姫を連れて逃げて来た高畑を、近右衛門は匿い明日菜に別の戸籍と人生を与えるべく尽力したのだ

ネギの受け入れはそんな秘密を本国に気付かれる恐れがあるほど重要な問題である


「しかしネギ君には平和に暮らせる場所が必要です。 ここなら僕も多少力になれますし……」

明日菜を守る為にもネギの受け入れは出来ないと語る近右衛門に、高畑はそれを理解しつつも食い下がっていく

ナギとアリカの忘れ形見であるネギは、高畑にとって特別な存在だった

かつて仲間達や師匠を見捨てて逃げる事しか出来なかった高畑にとって、ネギは自分が守り幸せにしなければならないという想いが強い

いや、強すぎたのだ


「ネギ君は微妙なバランスの上に生きておるのじゃ。 殺したい者や利用したい者が本国には溢れておる。 今でこそ英雄と讃えられてるナギも、死亡宣告の時まで戦争中の犯罪行為で賞金首だったのは君もよく知っていよう。 ネギ君を受け入れ本国から守る自信はないのじゃ」

近右衛門は高畑の意見に基本的には賛成だった

ネギには平和に生きる場所が必要な事など百も承知している

しかしアスナを守り世界樹の地下に封印されてるナギを隠すには、ネギはあまりにも危険な存在だった

敵は正面から来るとは限らない

あらゆる手段を使って近右衛門や関東魔法協会に忍び寄るだろう

近右衛門には麻帆良の街や魔法協会の部下や引いては日本を守る義務がある

人生の先が見えてる自分で責任を取れないネギを、簡単に受け入れる事は出来なかった


「それではネギ君はどうなるのですか? 命を賭けて世界を守ったナギとアリカ様の唯一の希望なのに……」

高畑は珍しく熱くなっている

温和で冷静な高畑の弱点はやはり過去だった


「高畑君の気持ちは十分わかっておる。 だが必要なのは戦う力ではなく戦わない力なのじゃ。 君も婿殿も本国や日本政府、そして世界各国の魔法協会と戦わないで勝つ力などあるまい?」

近右衛門の淡々としながらも厳しい言葉に高畑は返す言葉が出て来ない

赤き翼の支援をして影から支えていたのは、近右衛門などの一部の心ある実力者だったのだ

そして高畑は、自分には政治的な力がない事をよく理解している


「ネギ君には守ってくれる祖父がおるではないか。 危険を犯してまで麻帆良で受け入れる必要はないのじゃ」

結局この日は近右衛門が高畑の意見を押し切り話は終わる


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