平和な日常~秋~3

「誕生日だからな。 今日は特別だ」

一体いくら使ったのかと密かに気になる少女達だが、流石に誕生日の日に金の話をするほど不粋ではない。

横島自身ですら特別と言うだけに本当に滅多に作れないとみんな理解していた。


「盛り付けって大切なんだね」

「人間いかに見た目で物を判断してるかって分かるわ」

驚く少女達に横島はニヤリと悪戯っ子のような笑顔を見せるが、これも一種の横島なりのサプライズなんだと少女達は思う。

他のメニューのフライドチキンなんかも、当然見た目が普通なのに味は別格だった。

某有名なフライドチキンなんかと比べると幾分スパイスの味が抑え気味だったが、その分鶏肉の旨味が濃く感じられる仕上げである。

鶏とスパイスの香ばしい香りはもちろんあるが、同時にビーフシチューなどと一緒に並んでも味や香りが喧嘩をしないのは横島が全体として考えたからだろう。

しかも普通は盛り付けでワンランク上に見せるのに、今回は逆にわざとワンランク下に見せたのだからある意味横島らしい料理だった。

そもそもこのレベルの料理でそんなことをする料理人は横島だけだろうと少女達は確信する。


「本当に横島さんらしい料理ですね」

そんな料理を気取らずに楽しめた夕映は、今日の料理こそ本当に横島らしいと思うと思わず笑ってしまう。

普通ならばやらないようなことを平然とする横島の常識に捕われない発想こそ、横島の本当の強みであり同時に弱みなのだと夕映は知っている。

決して派手なパーティーなど望まぬ夕映は、そんな横島の独自の発想から来る気遣いと優しさが本当に嬉しかった。


(相変わらず不思議な人ですね)

横島と出会い一緒に居て長所も短所もそれなりに知ってた夕映だが、知れば知るほど不思議だなと感じることが増えている。

一言で言えば横島はとてもアンバランスなのだと思う。

妙に子供っぽい時があったかと思えば、まるで亡くなった祖父のように感じる時もあるのだから。

ふと見渡せば周りではそんな横島と友人達が、美味しい料理を堪能しつつおしゃべりに華を咲かせている。

夕映はこんな楽しい日々がずっと続けばいいと心から願ってやまなかった。


その後食事が終わると最後にはケーキにろうそくを立てて夕映が火を吹き消すのだが、いつもは見ることが出来ない明かりの消えた店内にろうそくのほのかな光だけが灯ると、まるで別の場所に来たような錯覚を起こすほど幻想的な雰囲気になる。

友人を祝いつつ見守る少女達と夕映は、その幻想的に揺れる炎に何故か自身が家族と一緒に誕生日を祝ったことを思い出していた。


(そっか……)

それは横島とタマモ以外のみんなが感じていただろう。

何故横島の元にみんな集まり一緒に居ることが多いのかということを。

横島の存在はまるで家族のように違和感がなく自然なのだ。

普通はよほど親しくでもならなければ得られないような、自然な温もりが当然のようにあるのだから。

その価値を親元を離れて暮らす少女達はきちんと理解している。


最後にフーッと炎が夕映により吹き消されて部屋が闇に包まれると、明かりが付けられて元の部屋に戻っていた。

夕映と少女達はその一瞬がまるで幻だったかのようにお互い顔を見合わせ笑ってしまう。


「ん? どうした?」

そのちょっと不思議な光景に横島とタマモは意味がわからんと顔を見合わせて首を傾げるが、夕映達は笑ってごまかして笑顔の意味を語ることはなかった。


「たんじょうびはたのしいね!」

横島はしばらく笑顔の意味が少し気になるようだったが、タマモは特に気にしてないらしくみんな楽しそうで満足げである。

ちなみにこの夕映の誕生日がタマモの中での誕生日の基本になるのだが、横島も夕映達もそこまで気付いてなかった。

お土産好きなタマモが、誕生日にプレゼントを渡すことも好きになった一日だった。



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