平和な日常~秋~3

さてこの日の横島の店だが、土曜なので学生達で賑わっていた。

体育祭以降は客層がかなり広がったのだが、常連を含む学生達が店内で食べていく客が多いのに対して一般人や社会人はスイーツの持ち帰りが多い。

元々男女比率が極端な横島の店では店内が女子中高生の憩いの場になっているので、あまり馴染みのない男性は店内で食べて行くには少し居心地の悪さを感じる者もいる。

まあ平日の日中は普通の喫茶店と同じ感じなのだが、平日の夕方と土日は別世界のような雰囲気だった。


「豪徳寺先輩も甘党だよねー」

「見た感じタバコとかお酒が似合うのに……」

そんな女子中高生の憩いの場となってる店内に馴染んでる数少ない男性陣は、豪徳寺薫と仲間達である。

彼らは体育祭の後に来店して以来、ちょくちょく店に来るので女子中高生の常連とはすっかり顔なじみになっていた。

特に豪徳寺や仲間の大豪院ポチなどは絵に書いた不良のようなコワモテなので最初こそ敬遠されていたが、毎回来ては甘い物を頼むのでいつの間にか馴染んでいる。


「俺達は未成年だからタバコも酒もやらんし、身体に悪いから成人してもやる気はない」

この日も幸せそうにスイーツを食べる豪徳寺達だったが、その見た目と違う甘党っぷりに周りの少女達にからかわれていた。

豪徳寺なんかは麻帆良の番長なんてあだ名があるほど見た目は不良なのだが、実際には格闘バカなので健康には気を使うし身体に悪いことはしないらしい。

まるで狙ってるかのような違和感の豪徳寺は特に好奇心旺盛な少女達の餌食になるが、この店では横島の影響か男性よりも女性が強かった。

ちなみに豪徳寺達の中で比較的イケメンでモテる中村達也と山下慶一だが、彼らもまた格闘バカなので女子中高生にからかわれる対象である。

強くてイケメンな二人は日頃から割とモテるらしいが、生真面目な性格からか格闘バカな思考からかは分からないが彼女は居ないらしい。

基本的に店で一番からかわれるのは横島なのだが、この日のように横島が居ないと彼らなどがからかわれていた。


「豪徳寺薫! 勝負だ!!」

そして豪徳寺達がよく来るようになってからたまにやって来る者がいるが、彼らは豪徳寺達と勝負しようという格闘系サークルの男達である。

どうやら豪徳寺が体育祭の格闘大会で準優勝した影響で彼らに勝負を挑むバカが相当増えたらしい。

風の噂で古菲と豪徳寺達が一緒に修行をしてると広まっており、豪徳寺に勝ては古菲と一緒に修行が出来るとの根も葉も無い噂が広がってるためであった。


「おお、今日は麻帆良大のムエタイ愛好会の人だ!」

「私、豪徳寺先輩に食券三枚!」

店内に入ると注文もせずに堂々と豪徳寺に勝負を申し込む格闘サークルの男だが、豪徳寺が食べ終わるまで待てと告げると周りの少女達が盛り上がり食券で賭けを始める。

ぶっちゃけ麻帆良ではよく見る光景なのだが、バイトとしてフロアに居た明日菜は呆れ顔だ。


「横島さん、また来たわよ」

「またか? ほっとけよ。 店の中でやらなきゃいい」

彼らの登場で店内は更に賑やかになるが横島は店内で暴れない限りは追い出しはしないので、彼らはこの後店から出てストリートファイトを行うのが最近何度かあることだった。

盛り上がる豪徳寺と格闘サークルの男を見た横島が、絶対にあちら側には行かないようにしようと心に決めたのは言うまでもない。



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