平和な日常~春~

「凄いね……」

「いくら使ったのですか?」

木乃香に連れられるままに夕映とのどかの元に戻った横島だったが、持っているぬいぐるみやおもちゃの数々に二人はポカーンとしてしまう


「二千ちょっとかな? 失敗しなかったからな」

珍しくちょっと自慢げな横島だが、三人は不思議そうに首を傾げるだけだった

凄いのは凄いのだが、そろそろ横島の非常識さには三人共慣れて来ている

いったいどんな過去があるのか不思議に思ったくらいなようだ



「あの……、お願いがあるんですけど……」

横島と木乃香達がそんな話をしていると、後ろにいた中学生の制服を来た女の子が恥ずかしそうに横島達に声をかけて来る


「友達か?」

「いえ、確か今年中等部に入学して来た人だったような……」

見慣れぬ女の子に横島は木乃香達の友達かと思い尋ねるが、木乃香とのどかは知らないと首を振り夕映がかろうじて新入生の中にいた子だと気付く


「代わりにぬいぐるみ取って下さい!」

恥ずかしそうにモジモジとしていた少女は突然に横島の前でぬいぐるみを取って欲しいと頭を下げてしまうが、あまりに予想外な言葉に横島達はポカーンとするしか出来ない


「別に構わんけど必ず取れる訳じゃないぞ。 物によっては無理かもしれんし……」

あまりに期待に満ちた瞳に目を輝かせる少女に、横島はとりあえず欲しいぬいぐるみのある場所まで行ってみることにする


「あれなんですけど……」

「うーん」

少女の欲しいぬいぐるみを見た横島は少し険しい表情をするが、そのまま先程の残りの自分のお金でUFOキャッチャーを始めてしまう


「取れるん?」

「ちょっと難しいけど多分……」

木乃香達も見守る中で横島はUFOキャッチャーのアームを操作するが、取ったのは全く関係ないぬいぐるみだった


「何故そのぬいぐるみを取るのですか?」

「UFOキャッチャーは取れるやつから取って行かなきゃダメなんだよ。 次の次には取れると思う」

頼まれたのと違うぬいぐるみを取る横島に夕映は首を傾げつつ理由を尋ねるが、横島が説明すると納得したのかUFOキャッチャーを食い入るように見つめる



「おまたせ」

横島が少女に頼まれたぬいぐるみを取れたのは三回目だった


「ありがとうございました! 全然取れなくって、もうおこずかいが無くなりそうで……」

「お金はいいよ。 俺さ喫茶店をやってるから、よかったら今度来てくれ」

ぬいぐるみがよほど嬉しかったのか、ぴょんぴょんと跳ねて喜ぶ少女の笑顔に横島も嬉しそうだ

彼女はそのまま横島に使ったお金を渡そうとするが、横島は受け取らずに店の宣伝をする

普段はアレだが相変わらず美少女に対してはマメな男だった


「私、佐倉愛衣っていいます! 今度お礼に行きます。 本当にありがとうございました」

ぬいぐるみがよほど嬉しかったのか、少女は横島の両手を握り自己紹介して帰っていく

魔法生徒である彼女との出会いもまた、全くの偶然だった


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