平和な日常~秋~3

そのまま高畑達と刀子達は湯豆腐を囲みながらお酒を飲み始めるが、何故か横島も誘われて混ざっていた。

ガンドルフィーニ以外は割と親しいので一人で飲むなら一緒に飲もうと明石に誘われていたのだ。

どうも高畑達三人の中で一番人当たりがいいのは彼らしい。


「へぇ~、それじゃ学園長とは麻帆良に来てからの知り合いなんだ」

横島が加わったことで話題は普通の教師としての苦労に変わっていたが、それがふとしたきっかけで横島が麻帆良に来る前の話になる。

明石達もあまり詮索はいけないとは思いつつも好奇心もあるようで、差し障りがない範囲でいいから横島の過去を聞きたいらしい。

結局横島は木乃香達への説明と同じく海外を両親と転々としていたことや、ここ数年は両親が亡くなって一人で放浪していたことなど語ると彼らは興味深げに聞いていた。

特に魔法関係者の間では近右衛門と知り合いだと噂になっていたので、麻帆良に来るまで会ったこともないと聞くと素直に驚いている。

彼らもあまりはっきりとは言わないが、いろいろ根も葉も無い噂が広がってるのは魔法関係者も同じようだった。


「元々定住する気も無かったですしね。 偶然と運だけでここに居ますよ」

その後の話は横島が麻帆良に来てからに続くが偶然出会った木乃香と親しくなり宝くじで定住したと聞くと、明石やガンドルフィーニやシャークティはなんとも言えない表情をしていた。

彼らの職業柄もう少しきちんと考えて生きなさいと言いたくなったのかもしれない。


「偶然と運か……。 詠春さんは君がこの街に来たのは、世界樹に導かれたからかもしれないと言っていたよ」

微妙な表情の明石達に高畑は何故か微かな笑みを浮かべて、詠春が以前語っていたことを口にする。


「導かれた?」

その言葉には横島や明石達も驚き高畑を見ると、酒の席での冗談だったと前置きした上で発言の真意を語る。


「あの世界樹にはいろいろ古い伝承があるらしくてね。 中には世界樹は人と人の出会いを導くなんて伝承もあるらしい。 詠春さんも麻帆良で生涯の友と出会えたと言っていたからね」

それはよくある昔話や伝承とあまり変わらない話ではあったが、この場に居るメンバーは横島を含めてあの世界樹が普通の木でないことは当然知っていた。

加えて明治以前はあの木とその周辺は関西呪術協会の管理する土地だったのである。

従って古い伝承なんかは関東よりは関西の方が詳しい。

まして魔法関係者の間で英雄となってる詠春の言葉は、酒の席の冗談でも軽くは無かった。


「これで明日にでも夜逃げとかしたら、ちょうどいいオチがつきますね」

そんな高畑のふとした言葉から少し空気が引き締まったのだが、それをぶち壊したのはやっぱり横島だ。

そのタイミングは横島らしい絶妙なタイミングなのだが、冗談に聞こえなかったらしい刀子は飲んでいたお酒でむせて咳込んでしまう。


「ちょっと、刀子大丈夫!?」

ゴホゴホと咳込む刀子にシャークティは慌てて声をかけるが、刀子は大丈夫だからと笑顔を見せつつ横島を少しだけ睨む。

横島としては絶妙なオチのタイミングだったのだが、木乃香達と親しく夜逃げは彼女達が一番心配する話だっただけに素直に笑えなかったらしい。


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