平和な日常~秋~3

その後彼らの話が一段落する頃になると後片付けや明日の仕込みを終わらせた横島がフロアに出てくるが、カウンター席に座ると一人でビールをグビグビと飲み始める。

まるで一日の疲れを癒すオッサンのように飲む横島に、思わず高畑達の表情が緩む。

少し気が滅入る話をしていただけにそんな話とは無関係な横島を見て正直素直にホッとしたらしい。


「あら、皆さんお揃いで……」

そんな横島がフロアに来たことで話を変えた高畑達は普通に世間話をしながら飲んでいたが、今度は刀子とシャークティが揃って店にやってくる。

関東魔法協会では二十代から三十代の魔法協会の会員はかなり多く実際には顔を合わせたことがない者も多いが、高畑達三人と刀子達は割と顔を合わせる機会が多い。

まあ魔法協会と言っても所属してるだけで日頃は実際の活動に参加しない者もそれなりに居るため、学園勤務の魔法関係者で実力が近い彼らは結構顔を合わせる機会が多かった。


「偶然だね、よかったら一緒にどうです?」

予期せぬタイミングで顔を合わせた刀子達に明石は一緒に飲まないかと誘うと、刀子達もそれじゃあと彼らの隣に座る。


「いらっしゃい、何にします?」

「お任せで夕食とお酒をお願い」

刀子達が席に着いたことで横島はすぐに注文を聞きに行くが、日頃からよく来る刀子は相変わらずお任せでありシャークティも同じだった。

横島はすぐに刀子達の夕食の支度をするが、メニューはやはり湯豆腐である。

土鍋は先程横島達が夕食時に使っていた物と同じで女性二人分にしては大きいのだが、横島はせっかくだからみんなでどうぞと残っていた湯豆腐の食材を全て出していた。

時間的にこの後に夕食を目当てに来る客はほとんど来ないので、余っていた食材をサービスとして提供するらしい。


「これはさっきはなかったね」

「ああ、それは京風の湯豆腐の付けダレですよ。 出汁と醤油を割った物なんですけど、葛葉先生はそれがお好きなので」

再び土鍋で湯豆腐を作り始める横島だったが、付けダレが先程のポン酢などの他に刀子用に出汁醤油のような物が用意されていた。

実は京都では湯豆腐にポン酢は使わなく出汁と醤油で作った付けダレを使うのだが、木乃香は割とポン酢が好きなので先程はなかった物だ。

刀子の場合は横島の店に来ると故郷の味を頼む機会があるので、横島が刀子用にと急遽残っていた出汁で作ったらしい。

高畑達はどうやらそれを知らなかったらしく、驚きつつも出汁醤油で湯豆腐を味わっていく。

ポン酢のような刺激が少ない分、豆腐と出汁の旨味を感じるのはどちらかと言えばこちらかもしれない。

まあ横島のポン酢も自家製なので十分美味いが、出汁と豆腐の味を味わうならこちらが上だった。


「しかし君も相変わらず多才だな~」

喫茶店のマスターらしい服装の横島が土鍋で湯豆腐を作る姿はやはりどこか違和感がある。

明石はそんな横島に思わず笑ってしまいそうになりつつ横島の多才さを改めて感じていた。

料理の幅が広いのはカレーやスイーツで知っているが、2-Aの成績を押し上げたり野球大会やミニ四駆大会で優勝したりと横島の多才さは魔法関係者の間でも話題になっているらしい。



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