平和な日常~秋~3

秋の夕暮れは早く夏場だとまだ明るかった時間でも、すでに夜の闇に包まれていた。

繁華街でも派手なネオンがない麻帆良の街は、街灯や建物の窓からこぼれる明かりで異国情緒に包まれる。

夏場までは夕暮れ後は客がほとんど来なかったた横島の店も、日没の時間が早まるに従って夕暮れ後に来る客が増えていた。

部活や委員会や塾などを終えて帰宅すると、この時期はどうしても帰宅が夜になってしまうらしい。

横島の店で夕食を食べて帰る者やスイーツを買って帰る学生達がちょくちょくやってくる。


「マスター、今日は夕食なに?」

「湯豆腐だよ。 食って帰るか?」

そんなこの日も夜七時を過ぎた頃になると横島達の夕食の時間になる。

店内のボックス席のテーブルを繋げて喫茶店には不釣り合いなカセットコンロと土鍋が二つほど並ぶと、大皿に盛られた野菜や豆腐を厨房から運んで来た。

元々は横島と木乃香達の賄いの夕食だったのだが、月日を重ねるごとに食べる人が増えていく。

流石に毎日居るのは横島達とハルナくらいだが、刀子を始めとした常連の人ならば割と気軽に一緒に食べていた。

ちなみに料金に関しては賄いだからと必要最低限の食材費だけを請求しており、一般的な食堂やレストランと比べると格段に安い。

あくまでも賄いの夕食を一緒に食べてるだけだと言うのが横島の主張である。

木乃香達に関してはバイトの給料から食材費が引かれておりハルナは月単位で食材費を払っているが、彼女達は身内扱いなので常連よりも更に安い金額になっていた。

そもそも夕食の食材は店の食材の余り物が使われることが多いので、そちらは廃棄品として仕入れ値より更に安く計算している。

今日の夕食で言えば豆腐は夕食用に近所の豆腐屋で買ったのだが、野菜や一緒に食べるおかずは店の食材の余り物なのだ。

最終的に常連には麻帆良学園の寮の食堂と同じか少し安い程度まで下がっていた。

これに関しては元々貧乏性な横島は食材の廃棄が無くなるだけでいいのであり、木乃香や伸二の料理の練習も兼ねているので味に多少のばらつきがある日もあるが横島にとっては一石二鳥なのである。


「今日もお手伝い偉いわね」

「うん! 頑張ったんだよ」

そのまま料理や鍋など比較的重い物を横島達が運ぶ中、小皿やお箸などはタマモが運び夕食を食べに来た人達に配っていくと千鶴が声をかけていた。

実はこの日はあやか・千鶴・夏美の三人が来ているのだが、千鶴が笑顔で小皿やお箸を配るタマモを褒めると、タマモは遠慮することなく頑張ったと言い切る。

一緒に居る時間は木乃香達には全く及ばないタマモと千鶴だが、保母さんのボランティアのおかげか二人の距離は近い。

無論あやかと夏美ともタマモは仲良しだったが、タマモが自分から抱き着いていくのは三人では千鶴だけだった。

今日のお手伝いの内容を嬉しそうに語るタマモの話を千鶴は同じ目線で優しく聞いてあげていた。



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