平和な日常~秋~3

同じ頃魔法世界のとある中立都市の賑やかな酒場では、ネギの祖父が深々とフードを被った男と会っていた。


「お願いします。 ミスタースプリングフィールド」

賑やかな酒場と正反対の凍りつくような空気の中、フードの男はネギの祖父に深々と頭を下げる。


「おぬしらには恥という言葉はないのか? それとも三歩歩けば過去を忘れるのか? わしには理解出来んな」

一見すると穏やかな雰囲気の祖父だが、その言葉はとても冷たく優しさのカケラも見えない。

しかしそれもそのはずで、このフードの男はクルト・ゲーデルとその一派の工作員だった。

彼は突然訪ねて来て祖父にネギと共に自分達に力を貸して欲しいと頼み出したのだが、祖父からすると何を今更としか思えない。


「御高名な貴方ならばお分かりのはずだ。 現状がどれだけ危ういかを」

穏やかな表情を決して崩さぬ祖父だが、目の前の男への返事は最初から決まっており変わることはない。

そもそも彼らの話に乗るならば、こんな人が多い酒場などで話を聞くはずがないのだ。

ネギと祖父は今も監視されてる身であり、どこで誰に見られてるかわからない。

まあ工作員の男も監視の目をかい潜って来たのだろうが。


「わしと孫には関係ないことじゃよ。 それに問題はおぬしらの身内にあろう。 まさかおぬしらが世界の中心だとでも言うつもりか? アメリカ人でもそこまで傲慢ではないぞ」

出来るだけ周囲に話の内容を悟られるような言葉は避ける二人だが、祖父はこの期に及んで協力などと自分達に都合がいいことを言い出す目の前の男に呆れていた。

世界の危機だから協力して欲しいと言いたいのだろうが、元を正せば世界の危機を放置して来たのはメガロ側なのだ。

加えてネギの平穏な人生を壊したのは目の前の男の一派である。

何をどう考えれば協力に行き着くのか祖父は不思議で仕方なかった。


「貴方達にも十分利益はあるはずだ」

「そもそもの前提として、信頼関係のないおぬしらの話を信じること自体が無理なのじゃ。 自分達のして来たことをよく考えてみることじゃよ」

一方の工作員の男は安住の地さえないネギや祖父にも利益があると言い、自分達に協力すればネギの平穏は守れるとでも言いたげであったが過去を考えれば信じることは不可能である。

彼らとすればネギを使って二十年前の真実を明らかにして、ナギとアリカの名誉を回復することでメガロメセンブリア元老院の自分達以外を纏めて潰して権力を掌握する気のようだが、祖父からすれば一種のクーデターと同じで上手くいくとも思えない。


「おぬしらの身勝手な正義に付き合うつもりはない。 それと今回の件は向こうのわしの友人に伝えるからそのつもりでの」

熱くなり自分の正義を疑わない工作員の男に冷たい視線を向けた祖父は、もう話す余地はないと席を立ちその場から去ってしまう。

工作員の男はなんとか祖父に食い下がろうとするが、すぐに祖父には監視の目が戻ってしまいどうしようもなかった。




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