平和な日常~秋~3

結局その日横島達は夕食をご馳走になって帰るが、帰り際にきちんと食事代などを支払っている。

例によってタマモのお土産にと大量のさつまいもを購入したので、それと食事代を合わせて払っていたのだ。

芋掘りと二食分の食事におやつも出してくれたので、横島は一人三千円くらいが妥当かと考えお土産のさつまいもを合わせると合計十万近く払おうとしたがおばあちゃんに多過ぎると半分くらい返されてしまう。

横島とすれば流石にそこまでは甘えられないと困ってしまうが、おばあちゃんも商売でやった訳じゃないから経費分だけでいいと譲らない。


「久しぶりに賑やかで楽しかったからこれでええよ」

「いや~、そういう訳にも……」

麻帆良に来てからの横島はお金には困ってないので普段ならば多少強引にでも受け取って貰うのだが、相手が引かないため逆に押され気味だった。

横島も人生経験なんかは負けてないはずなのだが、押しの強い相手に弱いのは相変わらずのようだ。


「若いもんが遠慮するもんじゃないよ。 みんなもまた遊びにおいで」

最終的に横島は自ら折れて返された分を受け取るしかなかった。

おばあちゃんはすっかり仲良くなった少女達にまた遊びにおいで別れを惜しんでおり、すでに話を切り替えていて蒸し返すことは出来ない。

横島とすればお金は余裕がある訳だしきちんと出すべきだと考えていたが、結局おばあちゃんにとってみれば少女達も横島も同じ孫の世代なのである。

商売として受け入れたのでない以上、経費分だけで十分だというおばあちゃんの主張は間違ってる訳ではない。


「君も流石に年配者には勝てないか」

「あの年代は強いからね」

そんなすっかりおばあちゃんのペースで負けてしまい苦笑いの横島に、高畑と明石は面白そうに笑いながら声をかけた。

横島本人は比較的大人しくしてるつもりだが高畑や明石から見ると騒ぎの中心的存在であり、そんな横島がおばあちゃんには完敗だった姿は結構面白かったらしい。


「基本的に横島さんは押しが強い相手には弱いのです。 特に相手に悪意がないと見事なまでに流されますから」

「あー、確かにそうかも」

「マスターお人よしだからね」

そして夕映が横島の敗因を語り弱点を冷静に暴露すると、周りの少女達が同意するかのように頷き教師陣は感心したように見つめる。

端から見ると横島が周りを押して振り回してるようにも見えるが、実際は逆に振り回されてることが多いことを身近な少女達はよく理解している。

そして教師陣は夕映がいかに横島をよく見ているかを改めて理解していた。


「……さて、帰ろうか」

自分のことを自身が考える以上に美化された横島は、一瞬買い被り過ぎだと訂正しようかと思うが薮蛇になる気がしてスルーしてしまう。

そもそも周りからお人よしだと言われることに、横島自身は違和感を感じずにはいられないのだ。

ただ自身の秘密を明かせない以上は説明しても理解してくれないことは分かりきっている。

周りはお人よしだと言うが横島からすれば自分が楽しんでる感覚でしかなく、ちょっとした手助けに過ぎないのだ。


最後におばあちゃんにまた遊びに来ると約束して一同は帰るが、横島はおばあちゃんに続き少女達にも流されることになった。



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