平和な日常~秋~3

そんな昼食の最後は焼き芋がデザートになるが、さつまいもが焼ける香ばしい匂いとホクホク感に昼食を完食した少女達も別腹だと言わんばかりにさっそく頬張る。

さつまいもの場合は鮮度が勝負の野菜ではないので必ずしも採れたてがいい訳ではないが、それでも市販の焼き芋よりは美味しく自分達で収穫して食べると思うと一種の贅沢にも感じていた。


「縁側がある家っていいなぁ」

「このまま昼寝したくなるね」

焼き芋と熱いお茶で昼食を締めた一同はそのまま部屋でゆっくりしていたが、部屋は障子と廊下を挟んでガラス戸を開けるとそのまま縁側に出られた。

縁側からは広い畑や近隣の住宅なんかが見えるが、田舎を知らない少女達はドラマで見るような縁側にはしゃいだりもしている。


(今年の年末は実家に帰ろうかしら)

一方シャークティや横島達と昼食の後片付けを手伝っていた刀子は、腰の曲がっても元気なおばあちゃんを見て今年の年末は実家に帰ろうかと考えていた。

刀子の母は流石におばあちゃんと呼べる年ではないが、祖母はちょうどおばあちゃんくらいの年齢である。

実家には離婚以来三年ほど帰ってないがもちろんそれには理由があった。

話せば少し長くなるが、刀子の実家は代々関西呪術協会に関わって来た家系である。

まあ家柄はさほど高くなく関西呪術協会では中堅のよくある家柄だったが、代々子供は才能により術士か剣士になるのが当然だった。

刀子もそれにならい神鳴流剣士として免許皆伝にまでなれたが、問題は結婚相手が関東魔法協会の人間だったことである。

当時も幹部クラスでは密かに交流があったが、関西の中堅以下の人間は関東にいい印象はあまりなかった。

メガロ勢力を追放して以降表立った争いこそ消えたが、長年対立していた東西の関係が急激に変わることもなかったのだ。

まだ両親は理解してくれたが祖母は最後まで反対していたし、実際刀子の実家は関西で肩身の狭い思いもしていた時期もある。

ただでさえ敵対勢力の人間と結婚するので揉めたにも関わらず数年で離婚したのだから、周りからするとそれ見たことかと陰口を叩かれることもあったらしい。


(学園長先生と長が居なければ、私は帰省すら出来なかったんでしょうね)

その影響もあって離婚して以降実家に帰省してなかった刀子だが、実は刀子の実家現在の状況は幾分変わっている。

離婚後の刀子と実家の状況を心配した近右衛門と詠春が、根回しや工作をして刀子と実家への風評と風当たりを止めてくれたのだ。

そのおかげもあって実家からはたまには顔を見せに帰って来いと言われているが、刀子とすればやはり帰りにくい。


(おばあちゃん元気かな……)

正直当分帰るつもりはなかった刀子だが、結婚する時に最後まで刀子を心配して反対した祖母に会いたいと思った。

あの時祖母が何故反対したのか、刀子は今ならばよくわかる。

東西の魔法協会の対立に二十歳そこそこの娘が巻き込まれるのだから止めて当然だった。

優しくもどこか逞しさを感じるおばあちゃんを見ていた刀子は、祖母が元気なうちに会いに行こうと心に決めていた。



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