平和な日常~秋~3

「そういえばあの新人君、もう一週間ね。 どうなの?」

その夜、木乃香達や宮脇兄妹が帰った後刀子が仕事帰りに店を訪れていた。

ここ一週間、伸二は夜遅くまで残り料理を教わっていたため刀子も何度か顔を合わせている。

今日は少し休むようにと早く帰したのだが、刀子は伸二の様子が少し気になるらしい。


「今のところ可もなく不可もなくってところっすね。 教えてるのは基礎でしからないですし」

「やっぱりお嬢様のようにはいかない訳ね」

刀子が伸二を気にしているのは伸二に個人的な興味がある訳ではなく、木乃香が横島と会い急成長したので今回はどうなるかとの興味があるらしい。


「木乃香ちゃんは基礎が出来てましたから。 それに本来は成功と失敗を繰り返し経験を積みながら覚えることですからね。 流石に二週間だと失敗を経験させる余裕はないですし」

僅か半年足らずで木乃香を料理大会優勝に導いた横島の存在は、料理関係者のみならず魔法関係者にもそれなりに注目を集めている。

実際横島は木乃香には成功と失敗を必要に応じてバランスよく経験させて教えており、木乃香の料理に対する柔軟性はその経験も生きていた。

しかしそれはある程度基礎が出来ており、料理の才能があった木乃香だからこそ出来たことでもある。

横島は木乃香以外にも夕映や明日菜やのどかなどにも時々教えているが、店を完全に任せられるレベルに達したのは現状では木乃香だけなのだ。

元々横島も彼女達も料理人にしようとかプロを目指してる訳ではないので、成長スピードに差が出るのは仕方ないことだった。

伸二に関しても彼の学習能力に合わせて教えてる訳で、特別な力を使わない限りは一週間で覚えれる範囲は限られている。

実のところ横島は知識や経験を一瞬で人に与えることも能力的には不可能ではない。

ただ使いこなせるかはまた別問題だし、一般人にそんなことをするはずもないが。


「個人の飲食店で成功するのは難しいわよね」

「ですね。 味と値段のバランスを考えると企業経営の飲食店に勝つのは簡単じゃないっすよ」

一見すると頼りなくも見える横島を見ていると大丈夫なのかと不安にもなる刀子だが、実際には見た目と違うのは理解している。

ただそれでも廃業寸前の飲食店の再建は難しいと思っていた。

横島本人が働くならともかく料理が素人に近い人間を、短期間で客を呼べるように出来るのかは正直半信半疑であった。



「そういえば明日遊びに行くんだって?」

「早耳っすね、誰から聞いたんです?」

「柿崎さんから誘われたわよ。 よかったら一緒にどうですかって」

その後伸二の話が一段階すると刀子は明日のお出かけの話を持ち出し横島を驚かせる。

どうやら知らないうちに情報が身近な者達に回っており、刀子も誘われたと少し微妙な笑みを浮かべていた。

横島は詳しく知らないが実は木乃香達が美砂達を誘っており、刀子まで話が回ったらしい。

納涼祭の件もあるのであまり情報を広めるつもりはないらしいが、流石にクラスメートである美砂達に隠すと後が怖かったようだ。

刀子に関しては立場が微妙なのだが、前回の果物狩りや前々回の海の流れもあり誘われたようである。


「そうっすか。 なら是非来て下さいよ」

「まあ休みなのは休みなんだけどね」

美砂に誘われたと言い迷いを見せる刀子に横島も是非来て欲しいと誘うが、教師という立場を考えれば刀子は少し微妙な気持ちになるようだった。

まあ一緒に行くのが同性の生徒だし横島は部外者なので特に問題がある訳ではないが、若い少女達に混ざるのに少し抵抗があるのは変わらないらしい。


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