平和な日常~秋~3

それから数日は宮脇兄妹に料理や店の経営なんかを教える日々が続くが、伸二の物覚えはまずまずだった。

休憩を何回も挟みつつも一日十二時間以上教えてる割には成長が遅い面も見られるが、本人は横島が渡した基礎知識なんかの料理マニュアルを家でも勉強してるらしくやる気はあるらしい。

妹の久美は夕方以降しか来れないので技術習得に時間がかかっているが、こちらは学生なので仕方ないだろう。


「まいど。 あれ、新人さん?」

「ご苦労様です。 新人ですよ、期間限定ですけど料理の修業に来てます」

そんな修業開始して数日した日の午後二時頃、横島は常連に頼まれ占いをするからと個室に入ってしまい伸二は代わりに店番をしていたが、ちょうど雪広グループの業者が午後の食材配達に来ていた。

伸二は横島の代わりに伝票の受け渡しなどを行うが、配達に来たドライバーは少し興味ありげに伸二に話し掛けてくる。


「へ~、ここのマスターただ者じゃないからなぁ」

「やっぱりそうなんですか?」

食材の確認をしながら世間話を始めるドライバーと伸二だが、料理修業に来たという伸二にドライバーは納得したような表情をして話が弾んでいく。


「ああ、配達する食材の幅が凄いからな。 高級な輸入食材から納豆まで本当に様々だよ。 うちはグループ企業を中心にあちこちに配達してるけど、使う食材の幅の広さはここが一番だって噂だしな」

「それは凄いですね」

「だろ、前に鰻なんて配達した時は俺もビックリしたよ」

自由気ままに料理を作る横島が頼む食材の種類の多さには、配達する雪広グループ側でも驚き噂になってるらしい。

特に高級食材や生鮮食材は品質管理が大変だともドライバーはこぼすが、それが笑い話になるほど横島はこちらでも目立ってるようだった。


「鰻ですか?」

「まあな。 自慢する訳じゃないけどうちの会社取り扱う食材多いから。 本当は個人の飲食店には卸してないんだけど、ここみたいに特別な店には幾つか卸してるしな。 個人の飲食店だと仕入れが大変らしいからさ」

配達のドライバーの話は第三者から見た横島と店の評判などもあり、伸二にはいい勉強になっていたが改めて横島は普通ではないと感じる。

実際雪広グループからの仕入れは品質も安定しているし卸し値も安い。

加えて必要な食材を必要な量だけ頼めるメリットは計り知れなかった。

ただよほどの腕前かコネでもないと個人で雪広グループからの仕入れは難しいと言われると、伸二は横島が店の見た目以上に周囲に評価されてると知る。

そもそも横島にしても麻帆良祭やその後の商品開発などでの協力関係が無ければ、一度や二度ならばともかく常時仕入れ続けることは難しいはずであった。

地元で採れる野菜などの農産物は横島も麻帆良の朝市や市場から購入するが、質と量を考えると雪広グループに頼る食材もまた多い。

伸二はなんで雪広グループの配達が店に来るのか不思議に感じ、自分もいずれ店で頼めないかと考えていただけに真実を聞き少しガックリしていた。


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