平和な日常~秋~3
次の日から伸二は朝は六時から夜は遅くまで、徹底的に料理の基礎を教わることになった。
実際に横島は自分の仕入れにも伸二を連れて行き食材の簡単な目利きを教えたり、市場や朝市の馴染みの店を紹介したりと精力的に動いている。
日中は料理をみっちり教えるが、覚えるべき基礎知識をパソコンで纏めてマニュアルのような物まで作っていた。
無論頭で覚えるのと体で覚えるのは違うが、基礎知識を頭に入れると入れないのでは雲泥の差がある。
何より一ヶ月程度で料理を覚えさせるには、普通に教えては難しいのが実情だった。
「火加減が強いっすよ」
「あっ、すいません!」
そんな横島と伸二の指導風景だったが、横島は相変わらず緊張感がないが伸二は何故か緊張気味に教わっている。
というか今回の依頼で横島は報酬の話を一切してないにも関わらず、伸二の練習に必要な調理の材料費は横島持ちだった。
料理の修業も大変だが、伸二は修業終了後の依頼料がいくらいくか気になって仕方ないようなのだ。
「心ここに有らずって感じですけど、なんかありましたか?」
そんな伸二の様子に横島は半日ほど見てみぬふりをしていたが、流石に午後になっても修業に身が入らないと少し遠慮がちに理由を尋ねる。
母親の具合やその他にも気になることはあるのだろうとは思うが、もう少し集中しないと時間の無駄だった。
「いや……、あの言いにくいんですけど、今回の経費と横島さんへの報酬はいくらほど必要なのでしょうか? 母の入院費や店の赤字であまり蓄えがなくて」
「報酬っすか? そういえばお金のこと話してませんでしたね」
本当に言いにくそうな伸二の様子に、横島は謝礼や経費の話をしてなかったことを思い出す。
横島としては金の話は割とどうでもよく、終わった後で伸二が払える分でいいと特に考えてなかったのだ。
そもそも金の損得を考えるならば絶対に受けない依頼である。
「経費は店の再開後の状況を見ながら分割で構いませんよ。 俺への報酬も気持ち程度でいいですし」
「気持ち程度ですか」
横島からすると報酬の話をするより料理に集中しろよと言いたいが、伸二は真剣に悩んでしまう。
この日だけでも横島はそれなりに伸二の練習用に食材を買っているし、料理に関して覚えるマニュアルのような物まで作っている。
横島は本当に気持ち程度でいいと思っているが、伸二からすると自分が試されてるのかと誤解してしまう。
気持ち程度と言って本当に気持ち程度しか出さないと、非常識なのではと悩んでしまうらしい。
「正直、お金が欲しくて教えてるんじゃないんで気にしなくていいですよ。 ほんの気まぐれっすから」
「気まぐれですか」
基本的に横島は常連の女子高生への義理と少しの善意でこの依頼を受けたのだが、理由の分からぬ善意に伸二は少し戸惑っていた。
ただより高いモノはないとまでは言わないが、正直伸二達の依頼が横島にとってなんの利益にもなってない事実は気になっているのだ。
「人間誰しも損得勘定だけで生きてる訳じゃないですよ。 気まぐれとか義理とか偽善とか理由はなんでもいいんです。 あとから高額請求とかは絶対ないんで安心して下さい」
正直伸二はこれから先が不安なのだと理解した横島は必要なら報酬は要らないとの念書を書くからとも言うが、流石にそれは必要ないと伸二に止められてしまう。
何故横島がそこまでしてくれるのか伸二は不思議だったようだが、実際は横島も特に理由がある訳ではないのだ。
結局伸二は疑問を感じつつも今はお金の問題を横島に甘えることになる。
社会人としてそれでいいのかとの疑問は残るが、正直横島に高額な報酬を払う余裕などあるはずがなかった。
それに伸二自身は仮に母親が退院しても一緒に店を手伝うつもりなのだ。
加えてどう考えてもお金も時間もない自分に親身に教えてくれる人など、他に居るはずがないのだから。
実際に横島は自分の仕入れにも伸二を連れて行き食材の簡単な目利きを教えたり、市場や朝市の馴染みの店を紹介したりと精力的に動いている。
日中は料理をみっちり教えるが、覚えるべき基礎知識をパソコンで纏めてマニュアルのような物まで作っていた。
無論頭で覚えるのと体で覚えるのは違うが、基礎知識を頭に入れると入れないのでは雲泥の差がある。
何より一ヶ月程度で料理を覚えさせるには、普通に教えては難しいのが実情だった。
「火加減が強いっすよ」
「あっ、すいません!」
そんな横島と伸二の指導風景だったが、横島は相変わらず緊張感がないが伸二は何故か緊張気味に教わっている。
というか今回の依頼で横島は報酬の話を一切してないにも関わらず、伸二の練習に必要な調理の材料費は横島持ちだった。
料理の修業も大変だが、伸二は修業終了後の依頼料がいくらいくか気になって仕方ないようなのだ。
「心ここに有らずって感じですけど、なんかありましたか?」
そんな伸二の様子に横島は半日ほど見てみぬふりをしていたが、流石に午後になっても修業に身が入らないと少し遠慮がちに理由を尋ねる。
母親の具合やその他にも気になることはあるのだろうとは思うが、もう少し集中しないと時間の無駄だった。
「いや……、あの言いにくいんですけど、今回の経費と横島さんへの報酬はいくらほど必要なのでしょうか? 母の入院費や店の赤字であまり蓄えがなくて」
「報酬っすか? そういえばお金のこと話してませんでしたね」
本当に言いにくそうな伸二の様子に、横島は謝礼や経費の話をしてなかったことを思い出す。
横島としては金の話は割とどうでもよく、終わった後で伸二が払える分でいいと特に考えてなかったのだ。
そもそも金の損得を考えるならば絶対に受けない依頼である。
「経費は店の再開後の状況を見ながら分割で構いませんよ。 俺への報酬も気持ち程度でいいですし」
「気持ち程度ですか」
横島からすると報酬の話をするより料理に集中しろよと言いたいが、伸二は真剣に悩んでしまう。
この日だけでも横島はそれなりに伸二の練習用に食材を買っているし、料理に関して覚えるマニュアルのような物まで作っている。
横島は本当に気持ち程度でいいと思っているが、伸二からすると自分が試されてるのかと誤解してしまう。
気持ち程度と言って本当に気持ち程度しか出さないと、非常識なのではと悩んでしまうらしい。
「正直、お金が欲しくて教えてるんじゃないんで気にしなくていいですよ。 ほんの気まぐれっすから」
「気まぐれですか」
基本的に横島は常連の女子高生への義理と少しの善意でこの依頼を受けたのだが、理由の分からぬ善意に伸二は少し戸惑っていた。
ただより高いモノはないとまでは言わないが、正直伸二達の依頼が横島にとってなんの利益にもなってない事実は気になっているのだ。
「人間誰しも損得勘定だけで生きてる訳じゃないですよ。 気まぐれとか義理とか偽善とか理由はなんでもいいんです。 あとから高額請求とかは絶対ないんで安心して下さい」
正直伸二はこれから先が不安なのだと理解した横島は必要なら報酬は要らないとの念書を書くからとも言うが、流石にそれは必要ないと伸二に止められてしまう。
何故横島がそこまでしてくれるのか伸二は不思議だったようだが、実際は横島も特に理由がある訳ではないのだ。
結局伸二は疑問を感じつつも今はお金の問題を横島に甘えることになる。
社会人としてそれでいいのかとの疑問は残るが、正直横島に高額な報酬を払う余裕などあるはずがなかった。
それに伸二自身は仮に母親が退院しても一緒に店を手伝うつもりなのだ。
加えてどう考えてもお金も時間もない自分に親身に教えてくれる人など、他に居るはずがないのだから。