平和な日常~秋~3

それから十分ほどすると料理は出来上がり横島と夕映と常連の子が試食するが、三人の表情はパッとしなかった。


「下手に気を使ってもダメだからはっきり言うが、普通かな」

少し困ったように依頼人の兄妹が見守る中で感想を口にする横島だが、兄の料理は美味しくもなければマズくもない。

レベル的には一般的な家庭料理とすれば普通かもしれないが、商売として売り出すレベルではないのだ。


「やっぱりそうですか」

「お母さんは料理が上手かったんです」

若干言いにくそうな横島の意見に兄妹は落ち込むが、自分達の自己評価も似たようなものらしい。

入院中の母親は料理が上手いらしく、その味を知る客は当然満足出来るはずもなく客足は遠のいているようだった。


「あとなんかあるか?」

「僭越ながら私からも言わせて頂くと、掃除が少し行き届いてないと思うです。 入口のガラスドアが汚れ気になりますし隅の汚れが気になります。 それに全体的に店の雰囲気が暗いのも問題だと思うです。 お母さんのように味で勝負出来るのなら多少の問題は気にする必要はないかも知れませんが、現状ではお客さんが入りにくい雰囲気になってます」

料理の評価に続き横島は夕映に意見を求めると、夕映は細かな問題点を一つ一つ語っていく。

横島も夕映も母親の時代を知らないので判断が難しいが、現状は決して楽観視できるものではない。

普段は店は依頼人の兄が一人で切り盛りしてるらしくいろいろ精一杯なのは夕映も感じるが、兄の性格からなのか全体的な大雑把さが気になるようだ。


「それでこれからのことだけど、料理に関しては一度店を休んで修業するしかないと思う。 店のメニューだけでも長くて一ヶ月から短くて二週間は必要だろうな」

横島と夕映の指摘に依頼人の兄と妹は途方にくれるが、横島は今後のアドバイスを語り始める。

方法としては店を営業したまま修業をすることも不可能ではないが、横島は一旦店を休んでリニューアルした方がいいと判断していた。

そもそも依頼人の兄は以前にファミレスの厨房でバイトをしていたらしく、包丁技術は最低限あるので店のメニューの料理を本格的に仕込むのは二週間程度で可能だと見ている。


「単純に考えるならさ、別の仕事してここの家賃をお母さんが退院するまで負担した方が早いと思うぞ。 俺が言えた義理じゃないが、店と心中する覚悟がないならそうした方がいいと思う」

横島の提案に依頼人は悩み答えが出ないが、横島と夕映は依頼人の一番の問題点が見えていた。

依頼人の兄には母親を想う気持ちはあるが覚悟が足りないのだ。

日頃見た目がいい加減に見える横島だが料理には下手な妥協はしてないし、店の経営も夕映達や常連の人々の指摘なんかで素直に変えて対応している。

依頼人の兄は一言で言えば定食屋を若干ナメていたとしか言えない現状だった。


「後は二人でゆっくり話し合って決めてくれ。 修業するならその後もいろいろ協力するしな。 悪いようにはしないからさ」

結局横島は店の再建の道筋は示したものの、最終的には依頼人の覚悟次第だと告げてこの日は帰ることになる。



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