平和な日常~秋~2

結局その夜の台風のピークは深夜一時頃だった。

強い雨は降り続いたものの幸いなことに風はあまり強くならなかったので、横島宅の庭も麻帆良も被害らしい被害はないまま朝を迎えている。

東京都心や神奈川では結構強い風も吹き荒れたらしいので、今回は運が良かったのだろう。



「台風が過ぎたと思っら、今夜は停電か」

さてこの日の麻帆良の街だが、午前中は風と雨が降り続いたが昼過ぎになると風も雨も止みいつもの街に戻っていた。

ただテストが明日なのでいつもの賑やかさというよりは、若干重苦しい雰囲気があるが。


「みんなテスト勉強しなくていいのか?」

放課後になると最近恒例になっている店でのテスト勉強をする少女達で賑わっていたが、この日はテスト勉強もせずに横島とタマモのやってることを見つめていた。


「そっちの方が面白そう」

「私もやりたい!」

実はこの日横島とタマモは、お昼の忙しい時間が終わるとろうそくを手作りしていたのである。

最も市販のろうそくを溶かしてタマモが好きな形と色に作り直ししているだけだったが。

「別にいいけどテスト勉強はいいのか?」

カラフルな色と形のキャンドルを作っていた横島とタマモに、好奇心旺盛な少女達が黙って見ている訳はなかった。

急遽明日菜が追加で材料を買いに行き、店の奥のテーブルを何個か使ってろうそくの手作り教室が始まる。


「なんか夏休みの工作みたいだね」

「自分で作ったろうそくで停電を乗り切るって考えると、なんか停電が楽しみになるわ」

ろうそくの作り方自体は簡単なものだった。

ロウを湯煎で溶かしてクレヨンで色を付けて好きな型に入れるだけである。

タマモは匂いに敏感なのでやらなかったが、少女達にはアロマオイルを入れたアロマキャンドルの作り方もついでに教えていく。

「今度は何を始めたのですか!?」

ただ喫茶店で喫茶店でろうそくを作る少女達は、やはり目立っていた。

夕方過ぎてあやかが千鶴や夏美とお茶をしに訪れると、テスト勉強もせずに賑やかにろうそくを作る少女達に驚き目を見開いてしまう。


「ああ、手作りのキャンドルを作ってるんだよ。 今夜停電だろ? タマモと一緒に作ってたらみんな作りたいって言い出してさ」

若干戸惑いの表情を見せたあやかは、どうやら横島がまた何か新しいことを始めたのかと勘違いしたらしい

そんなあやかは横島がちょっとした遊びだと告げるとホッと安心した表情をする。


「なんか学校みたいです」

一方喫茶店としての店の営業もきっちりしてるが、こちらはこの日のバイトの木乃香と夕映に任せっきりだった。

テスト勉強はまだ喫茶店らしいからいいと思う夕映だったが、工作のようなことまで始めると本当に学校のような雰囲気になる。

そうなると横島はテスト勉強を教えたりろうそくの作り方を教えたりと、まるで先生のように見えてくるから不思議だった。

そんな店内に馴染みの客は慣れてるからか全く気にしないが、最近来ている新規の客は不思議そうに横島を見ていたりする。


何はともあれこの日も横島の店は平和だった。


78/100ページ
スキ