平和な日常~秋~2

「高音君、相手の実力や目的を見極める前に手出しはするなと教えたはずだが」

不審者が意識を手放すと銃で撃った者は、すぐに不審者から武器や財布や携帯などを取り上げて縛り上げた。

その上で周囲に人の気配がないことを確認すると、先ほどまで不審者と対峙していた者に声をかける。


「申し訳ありません。 ガンドルフィーニ先生」

不審者を捕らえたのはガンドルフィーニであり、不審者に影を切られたのは高音・D・グッドマンだった。

なおもう一人は佐倉愛衣である。

この日ガンドルフィーニは高音に主導権を与えて警備していたのだが、高音があまりに分かりやすい挑発に引っ掛かったことに表情にこそ表さないが頭を抱えていた。


「君のやる気はよく分かっているが、我々は警察でも無ければ軍人でもないんだ。 不審者は泳がせて背後関係を探るのが一番なんだよ」

ミスしてしまい落ち込む高音を気遣いながらも、ガンドルフィーニは何度となく話して聞かせた役割を教えていく。

高い理想を持ち己に厳しく生きる高音はこんな台風の日の見回りでさえ嫌な顔一つしない優秀な見習い魔法使いだった。

しかし高い理想は高音の成長を阻害する一因にもなっている。


「トカゲの尻尾をいくら叩いても意味などないからね。 高音君はもっと広い視野を持つことが必要だ」

悪い人間ではないからこそ、ガンドルフィーニは高音の指導に悩んでいた。

高音が持つ理想は魔法使いならば一度は憧れるような気高い理想なのだ。

ただしそれがいかに難しいかは、彼女には分からない。

特に高音はメガロメセンブリアで生まれ、アメリカのジョンソン魔法学校で育った魔法使いである。

実家もそれなりの血筋であり、ある意味メガロメセンブリアの教育の賜物のような少女なのだ。

ただ彼女の両親は優秀でバランス感覚のある人間なため、魔法至上主義に近いメガロの教育だけではダメだと判断して麻帆良に留学させたのだが。

ちなみに高音と愛衣の指導がガンドルフィーニな理由も、彼が魔法世界生まれでありメガロのことを良く知るからに他ならない。


「ガンドルフィーニ先生のおっしゃることは最もでしょう。 しかしスパイやテロリストを野放しにするのは正しいのでしょうか?」

ガンドルフィーニの言葉を真剣に聞いていた高音だが、彼女には信念があり自分なりの正義もある。

故にそれをガンドルフィーニに逆に問い掛けることも少なくない。


「君の意見も間違いではないよ。 泳がせても得られる情報などたかが知れてるし、逆に危険になることもある。 君の言うようにスパイは見つけ次第捕らえる魔法協会は多いからね」

高音の問い掛けにガンドルフィーニは少し苦笑いを浮かべて世界の現状を語るが、関東魔法協会は泳がせて追跡出来るだけの組織力や資金力があるからこそ泳がせているが世界を見ればそれは必ずしも多数派ではなかった。

一番手っ取り早いのは相手を捕らえることであり、大多数の魔法協会では不審者は捕らえることが多い。

ただしその場合は不審者も大人しく捕まるはずはなく、抵抗すれば生死は問わないことが当然だが。



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