平和な日常~秋~2

同じ横島達が身を寄せあって台風をやり過ごしてる頃、風雨が吹き荒れる麻帆良の街を歩く者達がいた。

雨合羽を着てはいるものの冷たい雨から顔まで守るのは不可能であり、少しずつ雨合羽の中も濡れていく。


「私達は麻帆良学園ボランティア警備隊です。 あなた達、こんな時間にここで何をしてるのですか? 身分証を見せなさい」

彼らは五人の集団であり麻帆良学園ボランティア警備隊と名乗り、この台風の中で大学部の研究棟に入ろうとしていた不審者を呼び止めている。

呼び止めた警備隊の者達は不審者を取り囲むような配置に着くが、不審者は何も語ることなく一切動きがない。

ちなみに麻帆良学園ボランティア警備隊とは、生徒や教職員などの学園関係者の有志によるボランティアの警備員達の総称だった。

主な活動は生徒達の指導や補導であり、高畑や刀子の広域指導員も正式にはこの活動の役職にあたる。

ここまで説明すればもうお分かりだろうが、このボランティア警備隊は魔法協会員達が麻帆良市内を堂々と警備する為の表向きな組織であった。

無論ボランティア警備隊には魔法を知らぬ一般人も居るが、警備の範囲や配置などは学園側がコントロールしているので一般人は危険が少ない地域に割り当てられているとの裏事情もある。


「もう一度だけ言います。 身分証を見せなさい。 今日は台風の為、特別な理由がない限りは閉鎖してるはずです」

不審者を取り囲んだ雨合羽の警備隊の者は少しキツイ口調で不審者に声をかけるが、その声は若い女性だった。

「女か……?」

取り囲んだまま一定の間合いを保つ警備隊の者達を見渡した不審者はようやく言葉を発するが、その声には相手を見下すような下劣な笑みが浮かんでいる。


「取り押さえなさい!」

それは分かりやすい挑発だったが、不審者を問いただしていた者はムッとした表情になると取り囲んでいるうちの二人に取り押さえるように指示を出す。

二人はその声に反応するように即座に動き出すが、相手のコンバットナイフが二人を一撃で切り裂く。


「影使いが居るからどの程度の実力かと思えば……」

二人が間合いに入った隙に不審者はコンバットナイフ一本で楽々と切り裂くが、切られた二人はまるで煙りのように消滅してしまう。

「なっ!?」

それがあまりに意外だったのか影使いと呼ばれた者は素直に驚きの表情を見せるが、驚いていたのは不審者も同じだった。


「欲を出さずに逃げれば追わなかったんだがな」

二体の影を切り裂き影使いに視線を移動させたほんの僅な瞬間に不審者の背後にいた警備隊の者が、不審者を背後から銃で撃ち抜いている。

無論不審者も背後を疎かにした覚えはないが、先ほどから話し掛けていた中心人物の影使いの実力を悟りほんの僅かだけ油断したのは確かだ。


「安心しろ。 殺しはしない」

不審者は撃った相手を確認しようと振り返るが、残念ながら彼が見たのは日本人にしては色黒の地肌だけだった。

急激な眠気からそれが麻酔弾だと悟るが、不審者はどうすることも出来ないまま意識を失ってしまう。

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