平和な日常~秋~2

横島達三人にハニワ兵と猫達でリビングは賑やかになっていた。

猫達の中には慣れない環境に若干興奮気味の子達も居るが、暖かい室内は快適であり全体的にはのんびりとした様子だ。

テレビは普通の番組が入っているが、ニュースでは逐一台風情報を流しており西日本では被害が出てる場所もあるらしい。

麻帆良の街でも風が吹き始めるとタマモは庭の花壇や畑が気になるらしく窓から外を見ては不安そうな表情もするが、今のところさほど強い風ではなくひと安心している。

そんな中で横島達はハニワ兵も含めた四人でトランプをしたり、折り紙を折ったりしながら夜を過ごしていく。



「前々から聞きたかったんですけど、私のように見える幽霊って他にも居るんですか?」

夜もふけてゆくとタマモは獣形態に戻り猫達と一緒にソファーで丸くなって眠ってしまった。

ハニワ兵は先程から冬用らしき編み物をしていたが、その手を止めてタマモ達が風邪を引かないようにと毛布をかけている。


「う~ん、どうなんだろうな。 俺が見えるようにしたのはさよちゃんだけなのは確かだけど」

さよはタマモが眠った頃からテスト勉強を始めていたが、突然何かを思い出したかのように自身の中にあった疑問を横島に尋ねていた。

じっと見つめるさよの問いかけに横島は少し考える仕草をするが、本当に分からないとしか言えなかった。

霊体が普通の人間の目に見える形で実体化するならば理屈としては不可能なことではないが、さよのように人間と見分けがつかないほどとなると自然にはほぼあり得ないことである。


「はっきり言えばさよちゃんは俺が元に戻さない限りは、前のように見えなくなることはないんだよ。 仮に俺が死んでもその身体は変わらない。 ただし普通の人間と違って成長はしないからな。 何年かしたら姿を変える術でも教えなきゃダメだろうな」

横島の答えにさよは少しがっかりした表情を見せるが、横島はさよが本当に知りたいことを察してさよの今後のことを語り始めた。

相変わらずいい加減なことは本当にいい加減な横島なので、相変わらずさよに細かいことを全く説明して無かったのだ。

正直さよはいつ昔のように戻るのかと、時々不安だったのだろう。

幸せな日々が続けば続くほど過去の孤独な日々に戻るのが怖いのは当然である。


「そうなんですか」

「先のことはもう少し落ち着いた頃に話すけど、前みたいな学校で一人ぼっちになることはもうないよ。 さよちゃんさえ良ければ好きなだけ俺達と一緒に居られることは保証する」

横島の説明を静かに聞いていたさよは、二度とあの孤独な世界に戻らないと聞くと無意識に目に涙を浮かべていた。

まるで夢のような日々はまだまだ続くと知っただけで、自分には過ぎたる幸せだとも思う。


「そもそもさよちゃんがまた前みたいな幽霊に戻りたいって言っても、タマモは絶対に納得しないぞ」

「……そうですね」

窓の外は台風の風雨が今も吹き荒れているが、最後に横島が少しおどけた表情でタマモが納得しない限りはもう昔のようには戻れないと告げると、さよは納得しないタマモの姿を想像して笑ってしまった。

普段は優しくていい子のタマモだが、納得がいかない時は横島を相手にしても譲らないような強さもある。


過去には戻れない。

そんな当たり前の事実だが、人とは違う時間を生きるさよにとってそれは何よりの朗報だったようである。




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