平和な日常~秋~2

それから数日は横島もテスト対策を教えることが中心の日常が過ぎていく。

木乃香のスイーツは相変わらずよく売れるが、委託販売が知られていくと横島の店はそれなりに落ち着いている。

まあ増えた客が体育祭以前の水準に戻ることはなかったが、日中は横島一人で対応出来る水準には落ち着いたのだ。

本家本元の味を求める客はそれなりに存在するが、同じ麻帆良でも横島の店から遠方の人や委託先でも同じ味だと考える者は近くの委託販売店で買い求めていた。

結局は朝の仕込みにハニワ兵を動員することで当面は凌ぐ予定である。



「タマモ、みんな二階に連れ行ったか?」

「うん」

「壁とかで爪研ぎとかしないように言っといてくれ」

そんなテストが間近に迫ったこの日は、どんよりとした空気で十月にしては少し蒸し暑かった。

実はもうすぐ台風が関東地方に直撃するのだ。

横島は庭の猫達を急遽二階に避難させて、庭の台風対策をしている。

台風の勢力は今のところ強いが土偶羅の予測では関東に来る頃には、勢力は衰え麻帆良も直撃から微妙に逸れるらしいが用心に越したことはない。

猫達の家やじょうろなどの飛びそうな物は全部車庫に閉まっていく。

横島宅の庭は周りを高い壁に囲まれてるので、風の吹き込み方が少々変わっている。

庭の野菜や草花は流石にどうしようもないが、果樹だけは支柱やロープで木や枝が折れないように対策が必要だった。


「みんないいこにしててね」

一方タマモは言われた通りに、のら猫達にトイレの場所を教えたり爪研ぎのおもちゃを与えたりしていた。

自由気ままな猫だが、流石に言葉が通じる友達であるタマモの言うことはよく聞きみんな大人しい。

それに猫達も台風が来ることを本能的に感じてるらしく、幾分不安げな様子なのだ。

タマモはそんな猫達を安心させるように大丈夫だからと話して聞かせていく。


「やっぱり、台風って怖いです」

「麻帆良は雨とか降っても、洪水とかならないから大丈夫よ」

そして横島が居ない店では明日菜とさよと木乃香が店番をしていたが、流石に台風がもうすぐ来るので今日は学生の客が少ない。

どうもさよは台風にいい思い出がないらしく、今朝から台風に怯えている。

横島やクラスメートにも散々大丈夫だと励まされているさよだが、先程からは明日菜が少し困ったように励ましていた。


「でも停電と重ならなくてよかったわ~」

「そういえば明日は停電なんだっけ?」

そのまま台風の話題が続く明日菜とさよだったが、木乃香は停電と重ならなくてよかったと少しホッとしている。

実は台風は今夜関東を通り過ぎる予定なのだが、明日の夜は半年に一度のメンテナンスによる停電の日なのだ。

流石に台風が来る最中に停電だけは木乃香も嫌だったようである。


「私は明日の朝の新聞配達が心配だわ」

台風に怯えるさよだったが、明日菜はより切実で明日の朝の新聞配達がどうなるかと考えると気が重いようだった。


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