平和な日常~秋~2

一方京都を訪れていた近右衛門と高畑は、関西呪術協会の人々との会談や交流を続けていた。

幹部クラスではそれなりに交流の積み重ねがあり意思疎通出来ているが、長年敵対関係に近い両組織の蟠りはそうそ簡単に解消する訳ではない。

まして関西の者達は関東の者達より長い歴史と誇りやプライドを持っている。

近右衛門と高畑は出来るだけ多くの関係者と会い、意見を交換して協力の下地を作らねばならないのだ。

いくら近右衛門が近衛家の人間だと言っても、半世紀近くも前に関東に行った人間なだけに警戒されないはずがなかった。

ただ近右衛門と今は亡き先代の長である兄との仲の良さは関西の者ならほとんど知っており、そのおかげで一応身内に近い形で受け入れられてはいる。

しかしそれでも関西の人間には関東主導での組織統一には、慎重な意見の者も中堅以下には少なくない。

実際に高畑やガンドルフィーニのように、元々は魔法世界の出身者だった者達も関東にはそれなりに居るのだ。

まあ現在麻帆良に残る魔法世界出身者のほとんどは日本で結婚し家族を持った者ばかりであり、逆に魔法世界に親戚縁者が居ない者がほとんどだったが。

それでも二十年前に戦争を仕掛けられた関西の者達からすると、高畑やガンドルフィーニのような現在の魔法世界と繋がりのない者でも警戒する対象になっている。

細々とした不信や疑惑に一々答えていたらキリがないが、それでも今回で近右衛門は協力する下地を作らねばならない。



「フェイト・アーウェルンクスのおかげで東西が協力するとは、皮肉に思えますね」

「古来より組織や国を纏めるには共通の敵の存在が一番いいからのう。 そういう意味ではいい時期に騒ぎをおこしてくれたわい」

この日も近右衛門と高畑は関西呪術協会の関係者への訪問をしていたが、高畑は移動中にふとため息を漏らし複雑そうな表情をした。

近右衛門が東西の融和を進めていたのは高畑も知っていたが、具体的に表に出る形で話が進み始めた原因が長年敵対してきた秘密結社完全なる世界だという事実は少し複雑な心境になるらしい。


「メガロメセンブリアの方は、各方面との協力は進むでしょうか?」

「現状では難しいじゃろう。 二十年前ほどの情勢になれば別じゃが、いろいろ前科があるからのう」

フェイトの存在が発覚して以来ずっと世界は急激に動いてはいるが、魔法世界の大国であるメガロメセンブリアを中心としたメセンブリーナ連合は、ヘラス帝国や他の中立国家及び親メガロ以外の地球側魔法協会の協力は全く得られてない。

はっきり言えば誰もがまたメガロ元老院の陰謀ではと疑っている。

関東魔法協会及び反メガロの魔法協会はヘラス帝国と中立国家アリアドネーとの情報面での協力を進めるなど、情勢はメガロ元老院に悪い方に進んでいた。

高畑としては魔法世界の情勢もかなり気になるらしく、向こうが再び戦争になるのではないかと心配している。


「二十年前……、君達赤き翼に政治を知る者が居ればのう……」

日本や地球側も心配する高畑だが、彼は同時に魔法世界も心配している。

それは赤き翼としてナギの想いを一番継いだのが、高畑だったからなのかもしれない。

しかし近右衛門はそんな高畑を見て、思わずため息を零さずには居られなかった。

力だけでは世界を守り続けることは出来ない。

高畑はそれを知ってはいても理解はしてないのだろうと思うとため息しか出なかった。



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