平和な日常~秋~2

十月も半ばになると日が暮れるのが早くなっていた。

日中はスイーツの販売やらテスト勉強の少女達で賑やかだった店も、夜には静かな店に戻っている。

そんな店内ではカタカタとノートパソコンのキーボードを叩く音が、有線放送の音楽をバックミュージックに響いていた。


「貴方なら教師としてもやっていけそうね」

「ガラじゃないっすよ。 勘弁して下さい」

客の居ない店内では横島がテストの山かけリストを作っていたが、この日は少し遅い来店となった刀子が横島の作業を見てはなんとも言えない表情を見せる。

実は今回は二年だけではなく、女子中等部の一年や三年や女子高生にも山かけを頼まれていたのだ。

基本的に横島の山かけは教師の授業から予測するモノであり、山かけには授業をきちんと聞いた生徒のノートが必要不可欠なのは以前にも説明したが。

それを持って来たのが女子中等部の一年と三年と、高等部の一部の常連だった。

その結果横島はノートや教科書を見ながらテストの山かけをしている。


「教師以外で貴方ほどの精度で問題予想出来るの学習塾の講師くらいよ。 大学生の家庭教師じゃ無理ね」

刀子は夕食にと店に来たが、横島が作りかけの山かけリストを見て呆れた口調で予想の精度が高いことを告げた。

実際刀子は自分が担当する教科しかテスト問題は知らないが、彼女も女子中等部の教師なだけに毎年の傾向からある程度の問題は予想している。

テストの問題予想自体は担任持ちの教師や学習塾の講師や家庭教師をしてる者はするので珍しくないが、部外者の横島の予測が教師並みなことから単純に凄いと感じたらしい。


「結構大変なんっすよ。 先生達それぞれの授業のやり方とかも聞いてますし、授業でやるミニテストなんかも参考にしてますしね」

横島の予測は特別的中率が高い訳ではないが、やはり教師でもない横島がやると目立つのが実情だった。

刀子も横島と親しいといえテスト関連の情報は絶対漏らさないし横島も聞かない。

しかしその作業を見てると、刀子は横島に教師をやらせてみても面白いだろうと考えてしまうようだ。


「貴方が教えてから神楽坂さんが授業を理解すること増えたから、結構話題になってたわよ」

「明日菜ちゃんの成績が上がったのは、のどかちゃんのおかげなんっすけどね」

「宮崎さんね。 確かに彼女も目に見えて成績が上がってるから注目されてるわ。 彼女の場合は性格の問題もあって実力を出し切れなかったのよね」

悩みながら山かけをしていく横島を刀子は面白そうに見ている。

実際に横島のように中高生に勉強を教える者は麻帆良では珍しくはない。

普通の学校と違い中高生と大学生の関わりが多い麻帆良では、大学生なんかが親しい中高生に勉強を教える姿は割とよくあるのだ。

ただ横島がやると何故か目立ってしまうのだから、刀子としては心配半分面白半分といったところか。

最下層の成績で悩んでいた明日菜と成績は上位でも実力を発揮出来ずに伸び悩んでいたのどかの、両極端な者達の成績を上げた横島は教師陣でも少し話題になったらしい。

無論全てが横島の成果だとは誰も考えてないが、二人を変えるきっかけを与えたのは横島だと思われている。

実はこれに関しては女性関係などで支離滅裂な噂がある横島が、教師陣からあまり嫌われてない原因の一つでもあった。


「俺はたいしたことしてないんですけどね」

「ちょっとしたきっかけで人は変わるわ。 でもそれを与えるのはなかなか難しいのよ。 貴方は教師じゃないからいいのかも知れないわね」

横島は明日菜達や木乃香達などが変わるきっかけになっているが、それは横島が教師でないから出来るのだろうと刀子は考えている。

多くの生徒を教える教師だからこそ出来ないことがあるし、逆に横島のように教師でないからこと出来ることもある。

刀子は学生達がもっと社会や地域住民と関わる機会を持つべきかもしれないとこの時感じていた。



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