平和な日常~秋~2

その後は松茸や牛肉に野菜などを炭火で焼いたり天ぷらにしたりしながら、ゆっくりと食事を楽しんでいく。

味付けは扱くシンプルで塩・胡椒・すだちなどだけだったが、素材そのものがいいからか酒に良く合った。

タマモとさよはお腹いっぱいになると茶々丸にお風呂を勧められて入りに行くが、横島はエヴァと囲碁を打ちつつ料理と酒を楽しむ。

エヴァとチャチャゼロは相変わらず会話が少なく、時折横島が話し掛けるもさほど会話が弾むことはない。

まあだからと言って雰囲気が悪い訳でもなく、恐らく二人はそんな環境が普通なのだろう。


「貴様も相変わらずよく分からん男だな」

しばらくそんな時間が続いた頃、エヴァは突然そんな言葉をぽつりと呟く。

それは一見するとただ呆れてるだけにも聞こえるが、彼女の場合はそれほど単純ではない。

長い年月を生きて来た彼女は横島の不自然さを当然理解しているし、何か隠してるのもとっくに気付いている。

そもそも技術や知識は積み重ねなければ、得ることも高めることも出来ないのは普通だった。

横島が何気なく見せる知識や技術は、明らかに横島の年齢には不釣り合いなモノなのだ。

麻帆良には超鈴音のような天才と呼ばれる者なども居るので横島の元々の性格も相まってあまり注目されてないが、知れは知るほど普通でないのはエヴァならずとも身近な者ならば大なり小なり気付いている。

ただエヴァは横島が何故それを隠さないのか疑問に感じているし、エヴァでさえも横島を完全に見抜けないことに違和感も感じていた。

仮に横島が見た目通り二十歳そこそこの人間だとすれば、エヴァにとっては赤子のような年齢だし普通に考えれば底が見えて当然なのだ。


「俺って人からは分かりやすい人間だってよく言われるんだけど?」

「ああ、一見すると分かりやすい人間だな。 だからこそ分からんのだ」

突然のエヴァの言葉に横島は松茸を食べてご機嫌な様子で答えるが、エヴァも別に深く追求するつもりはないらしい。

ただエヴァにしては珍しく人に対して好奇心が疼くのは確かなようだった。


「一つだけ言えるのは貴様は甘すぎる。 その甘さはいつか貴様の首を絞めることになるぞ」

深く追求するつもりはないエヴァだったが、少し厳しい表情になると横島の弱点を遠慮なく指摘する。

それは横島にとっては耳が痛い言葉であると同時に、すでに実体験として散々理解したことでもあった。


「前にも似たようなこと言われたことがあるな。 でもさ、甘さってそんなに悪いことか?」

エヴァの言葉は紛れも無く横島への忠告であり、彼女の目には見えない優しさからの言葉である。

その意味は横島も良く理解しているが、同時に甘さを無くしてまるで機械的のように淡々と判断することが正しいとも思えなかった。


「悪いとは言わん。 だが相応の覚悟と力は必要になる。 それだけのことだ」

「分かってるよ。 わざわざありがとうな」

忠告に対する横島の答えにエヴァはやはり甘いとは感じたが、それを不快に感じることも否定することもなかった。

彼女も横島の答えは何処か分かっていたのだろう。

横島が少し困ったように礼を言うと、エヴァは少しだけ照れた表情を見せてその話が終わる。

やはりお礼を言われたりするのは慣れてないらしい。



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