平和な日常~秋~2

テーブルに置かれた土鍋の蓋を開けると、食欲をそそる松茸ご飯の香りが広がっていく。

タマモとさよは目を見開き喜び、エヴァも表情こそ変えないが楽しみな様子だ。


「ホイル焼きも温かいうちに食べろよ」

食事が出来ない茶々丸が、松茸ご飯を茶碗によそい配っていた。

横島は食事を食べながらも頃合いを見計らって、焼き松茸と松茸の天ぷらを作る予定である。

ただ現状だけでも松茸ご飯に土瓶蒸しに松茸と鶏肉のホイル焼きと結構な品数があった。


「京風か?」

「ああ、今日は京風にしてみたよ。 鱧がいい奴が手に入ってな」

松茸料理の数々に食べるのが初めてのタマモとさよは、喜びつつもその味を噛み締めるように食べ始める。

エヴァはすぐに気付いたが今日のメニューは全体的には京風の味付けで纏めており、恐らく麻帆良ではお目に掛かれない代物だった。

チャチャゼロに至っては早くも松茸料理を肴に酒を飲み始めているし、横島とエヴァもそれに続くように料理と酒を楽しんでいく。


「松茸尽くしなんて贅沢だよな~」

食事が進み酒も入ると、横島・エヴァ・チャチャゼロはほろ酔い気分で気持ちよくなり始める。

横島はそろそろ頃合いかと松茸を炭火で焼き始めるが、炭火で焼かれる香ばしい匂いに横島は密かに貧乏だった昔を思い出し懐かしんでいた。


「おいしいね」

「そうだろ? 気に入ったなら毎日でも食べさせてやるぞ」

焼き上がった松茸はエヴァから順番に配っていくが、すだちを搾って塩を少し付けてニコニコと頬張るタマモに横島は親バカ全開の発言をする。

さよはいつものことだから笑って聞いているが、エヴァとチャチャゼロはあまりの親バカっぷりに呆れた視線を向けていた。


「貴様一体いくら使ったんだ?」

そんな呆れた表情のエヴァだったが、この日の食材は最高級品ばかりで材料費だけでいくらだったのか流石のエヴァも少し気になり出している。

元々はエヴァが頼んだ松茸料理だったが、頼んだ本人がビックリするほど大量にあるのだ。

頼んだ手前食事代は払うつもりのエヴァだが、実は彼女にある現金収入は関東魔法協会からの警備員の名目上での給料だけである。

元々エヴァに呪いをかけたナギは麻帆良の警備員として人々と交流させることを考えていたらしいが、彼が適当にかけた呪いは麻帆良を包む結界と偶然反応してしまいエヴァの魔力を必要以上に封じる鎖となってしまった。

その結果エヴァは魔力が極限まで封じられてしまい、警備員として働ける力すら失っている。

はっきり言えば現状のエヴァは警備員としては力不足であるし、彼女の悪名や過去の影響で他の魔法協会員と連携すら簡単には出来ない現状ではやれることが少なかった。

まあ形式上では封じられた上で警備員として雇ってることになっており給料も相応に出てるが、贅沢を満喫するような金がある訳ではない。


「料金のことか? 今日は珍しい物見せてもらったからタダでいいや。 別に金に困ってないしな」

料金の心配をするエヴァの気持ちを理解した横島は少し笑ってしまうが、今日はタダでいいからと言い切る。

今回は酒類や松茸や鱧など高級食材は異空間アジト産の物だし、茶々丸に用意を頼んだ物や季節の野菜などは買ったがたいした金額ではない。

魔法球の別荘という珍しい物を見せてもらった分でいいと考えたようである。



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