平和な日常~秋~2

「はじめまして、わたしはタマモ」

エヴァに声をかけられた横島は少し苦笑いを浮かべたが、タマモは近くのソファーに置いてある人形の元に歩み寄ると突然自己紹介をする。

全く動く気配もなく一見するとタダ置いてあるだけにも見えるその人形だが、タマモはじっと見つめたまま静かに返事を待つ。


「タマモちゃん?」

「寝たふりする人形か? 珍しいな」

そんなタマモの行動をエヴァは興味深げに見ていたが、さよは何かタマモの行動に違和感を感じ横島はその人形に魂があることにタマモが気付いたことに少し驚く。


しばしの沈黙が辺りを支配するが、それを破ったのはタマモだった。

ポケットに入っていた飴玉を人形に差し出し友達になろうと試みる。


「バカ野郎。 俺ハ辛党ナンダ。 酒持ッテ来イ」

タマモの差し出した飴玉を突然動き出した人形は素直に受け取り文句を言いつつも飴玉を舐めると、やれやれと言いたげな表情でタマモを見つめた。


「おさけはおとながのむものだよ」

「人形ニ大人モ子供モナイ。 ソレニ俺ハ数百年ハ生キテルカラ、モウ大人ダ」

ようやく会話が成立して嬉しそうなタマモだったが、相手の人形は仕方なく相手をしてる感じだ。

彼女の名はチャチャゼロ。

エヴァの従者にしてパートナーと呼べる魂を持つ人形だった。


「しゃべるお人形ですか~ 凄いですね」

「よかったなタマモ。 いい友達が出来て」

端から見るとお世辞にも楽しそうにもいい友達にも見えないが、さよと横島は気にした様子もなく笑顔でタマモとチャチャゼロを見守っていた。

まあ横島は随分ガラが悪い人形だなとは思ったが、特に悪意はないようなので内心では密かに安堵していたが。


「オウ、オ前ガ横島カ? 噂以上ニ変人ダナ」

「初対面の相手に変人はないだろ。 せっかく松茸と合う日本酒を持って来たのに、どうやらお前は要らないらしいな」

タマモと会話したチャチャゼロはそのまま横島とさよをも見るが、相変わらず口が悪い。

初対面で変人だと言われた横島はニヤリと意味ありげな笑顔を見せると、持って来た一升瓶をチャチャゼロに見せる。


「オ前、イイ性格シテルナ。 気ニ入ッタ。 今回ハ特別許シテヤロウ」

一升瓶と横島をチラチラと見たチャチャゼロはしばし無言だったが、何故か上から目線で和解の言葉を口にした。

一応チャチャゼロなりの謝罪なのだろう。


「そうかい。 そりゃありがとうよ。 それじゃキッチンに案内してくれ」

あまりに上から目線で会話が成立してない気もしないでもない横島だったが、不器用なチャチャゼロに微かな懐かしさを感じると思わず笑ってしまい茶々丸にキッチンへの案内を頼む。

そのままタマモとさよと一緒に茶々丸とエヴァ達に案内されて大きな塔のような建物を降りていく横島だったが、どこぞの神殿のような建物にまるで田舎者が都会に出て来たようにポカーンとなっていた。




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