平和な日常~秋~2

その日いつもは静かな辺境の町は、賑やかな活気に溢れていた。

大型の空中輸送船で運ばれた積み荷が広い空き地に降ろされて、その場で値付けして地元の人々に販売される。

そこは土偶羅が魔法世界の拠点の一つを置いた辺境の運送会社の敷地であった。


「珍しい物がいっぱいだわ」

「今回は帝国の品だよ。 オススメは果物だね。 向こうはここと気候が違うから、珍しい果物がいっぱいだよ」

辺境の小さな町に運送会社の拠点を置いた土偶羅だが、そもそも辺境には大量の荷物を運ぶような大きな会社も無ければスーパーマーケットもない。

今まで大規模輸送が行われなかったのは、冷戦状態の帝国と連合の交流がほとんどないことと辺境には大規模輸送の需要がなかったことが原因である。

今回土偶羅は辺境の都市国家の複数の町や村とヘラス帝国の間で貿易したが、実際には手続きの複雑さと関税の問題でほとんど利益は出ていない。

大型の空中艦や人件費を考えるとギリギリ赤字にならない程度の利益しかなく、初期投資を考えれば完全な赤字だった。

尤も土偶羅からすると最初からそんなことは理解した上での計画であり、魔法世界に基盤を作ることが目的なので維持管理費だけが出れば問題なかったからいいが。

ただ辺境の町の住人達の一般的な見方は、土偶羅が老人の人型を使っていることからも金持ちの道楽だという見方が多い。


「やはり倉庫が必要だな。 あと食品加工の工場も欲しい」

ようやく業務を開始した運送会社の敷地では青空マーケットが開かれ近隣の町からも人が訪れているので活気に満ちていたが、土偶羅の人型はこのままではダメだと感じていた。

現在運送会社の敷地には大型空中船の格納庫と小さな事務所しかない。

一応現状のままでも最低限の維持管理費は出るが、魔法世界の国際情勢の変化などがあればすぐに息詰まるのは目に見えている。

今のところは穀物や青果などの農作物のみを取り扱っていたが、将来を考えると加工食品は必要だと考えていた。

ちなみに魔法世界の文化の元であるマジックアイテムなどに関しては、連合も帝国も規制が多く勢力圏外への輸出は事実上不可能だった。

まあ魔法世界で一般に広まっている一部のマジックアイテムに関しては貿易も可能だったが、こちらは関税の問題であまり商売にならない。

例えば魔法世界で一般化してるテレビのような映像を受信するマジックアイテムならばそれぞれの国策の影響で貿易は可能だったが、儲からないのは変わらないのである。

そんな魔法世界で貿易としてなんとか成り立ちそうなのが、食料品や嗜好品の類であった。


「まずは倉庫だな」

いろいろ設備投資が必要な状況ではあったが、辺境の町だと倉庫一つ建てるにも地元へ最低限の根回しが必要である。

加えて工事には地元の地元の人を出来るだけ使わないと、よそ者の土偶羅達は後々面倒になる可能性もあった。

結局土偶羅の人型は新たに倉庫やら食品加工工場やら建設の準備に取り掛かることになる。



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