平和な日常~秋~2

振替休日の翌日横島の店では木乃香の料理大会出品スイーツである、和栗のショートケーキとりんごのロールケーキを各品一日二百個限定で、ベジスイーツのランチは一日三十食限定で販売していた

前日に横島と木乃香が契約した委託先である三店舗も今日から販売するので、合計では全店合わせて前日の販売数を越えるはずである。

横島としては正直もう少し販売数を減らしたいのだが、昨日の様子を考えたら無理だろう。


「木乃香、優勝おめでとう!」

一方の女子中等部では、料理大会で優勝した木乃香が多くの少女達に声をかけられていた。

体育祭で優勝や好成績を上げた者は軒並み声をかけられているが、中でも健闘したのはやはり木乃香だとの評判である。

クイーンの異名を持つ新堂美咲に並んだ結果は、中等部の少女達に大きな衝撃を与えていた。

大会前から実力を過大評価され気味だった木乃香だが、それでもなお新堂を相手に優勝すると思ってた者は少ない。

実際に体育祭の前には様々な競技で優勝候補として多くの少女達の名前が出てはいたが、候補から優勝の結果に繋げた者は多くはないのだ。

まして料理大会は中学生には圧倒的に不利だというのが常識であり、天才超鈴音と超が見込んだ五月は別格だと考えてる者がほとんどなのである。

横島の影響で過大評価されがちな木乃香だが、それを加味しても優勝は大健闘だった。


「木乃香もすっかり有名人ですね」

「そうだね」

廊下を歩けば祝福の言葉を貰う木乃香に一緒に居る夕映とのどかは、改めて料理大会の影響力の大きさを理解する。

ただ問題なのはクリスマスケーキの予約は何時からかと、早くも次の問い合わせが多いことだろう。

中等部の少女達はほとんどが横島の店の状況をある程度理解しており、クリスマスケーキも数量限定されると予想してるため木乃香達が祝福のついでに問い合わせの窓口になっていた。


「クリスマスケーキはまだ決めてないんや。 決めたら教えるわ~」

クリスマスケーキの問い合わせをして来る少女達に、木乃香や夕映は連絡先を聞き予約販売をするなら連絡することを約束している。

しかし連絡待ちの少女がこの日だけでも三十人を越え始めると、急遽彼女達は対応を考えねばならなくなっていた。


「昨日の騒ぎの余波がクリスマスケーキまで響くとは……」

「お店じゃそんなに数作れないよね」

「横島さんは多分まだ考えてへんよ」

急遽夕映・のどか・木乃香・明日菜が集まってクリスマスケーキの話し合いを始めるが、問題が大きくなる前に予約を受け付けするのかと、受け付けするならば限定数を決めねばならないとの話になる。

結果として木乃香優勝の余波は横島自身にも降り懸かっていた。


実のところ大会前までは横島の影響で木乃香が知名度を上げて過大評価されていたが、今度は木乃香の評価がそのまま横島の評価になり始めていたのだ。

麻帆良祭の影響で横島もそれなりに名前は知られていたが、それでも料理の腕前が大々的に評判された訳ではない。

一部の女子中高生を除けば木乃香達や千鶴や刀子絡みの根も葉も無い噂もあり、お騒がせ名物マスターとの印象が圧倒的に強いのである。

まあ女子中等部辺りでは横島の腕前が評判なので驚きはさほどないが、学園全体を通すと今回の件で初めて木乃香の実力はイコール横島の実力だと評判になり始めたのだ。

これに関しては正直横島はあまり深く考えてなく木乃香を過剰な期待から守る必要があるとしか考えてないが、実は横島も人事ではなかった。

大会スイーツの委託先が決まりホッとした木乃香達には次なる問題が降り懸かっていた。



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