平和な日常~秋~2

「危ないところ、ありがとうございました」

「当然のことをしただけだ。 気にしないでくれ」

クレーマーが居なくなると店内からは豪徳寺達に拍手が沸き上がり横島もお礼を言うが、豪徳寺達はたいしたことでないからと席に戻ってしまう。

店内の客のほとんどは女性なので女性からの尊敬の眼差しに豪徳寺達も満更でもない表情だが、決して威張る訳でもなく謙虚である。

横島はそんな彼らや店内に居た客にお礼とお詫びにサービスでもしようかと思うが、店外に行列がある現状では流石に難しかった。


「夕映ちゃん、あの人達はお代貰わなくていいから。 サービスだって言っといて」

結局横島は豪徳寺達の支払いをサービスすることくらいしか出来ずに、夕映にその件を頼んで厨房に戻っていく。



「横島さん危ないわ~」

「あの手の客はあまり刺激しない方がいいと思いますわ」

厨房に戻った横島はさっそく調理に戻るが、木乃香やあやか達に心配というか対応の問題点を指摘されていた。

一般的に見ると横島の対応は問題がある対応だと見られても仕方なく、もう少し丁重に理解してもらった方がいいと考えて当然だった。


「あの程度のルールすら守れない客はうちの店にはいらないからな」

木乃香達の心配と指摘は横島も常識として理解はしてるが、はっきり言えばあんな人間は店に来て欲しくない。

中途半端に対応して相手がゴネ得に味をしめて、また来ても困るのだ。

横島の店は所詮は個人経営の喫茶店だし、甘い対応してつけ込まれるつもりはないらしい。


「あの人達が止めてくれへんかったらどないしたん?」

「暴力を振るうような奴だったら警察呼ぶだけだし、騒ぐだけだったら追い出して出入り禁止だよ」

毅然とした対応をすると言い切る横島に木乃香達はまだ不安そうではあるが、あの手の対応が難しいのは彼女達も理解していた。

まあ今後に関してはあとでゆっくり考える必要があるが、今回の件で彼女達も社会の難しさを実感する。


その後この話が途切れると厨房はまた和やかな空気に戻るが、木乃香達は横島の意外にシビアな一面を初めて目撃したことが心に残っていた。

基本的に横島は争いなど好まないし、何かあっても困ったように笑いながらみんなで解決して来たのだから。

ある意味クレーマーのあの男を最初から拒絶したような態度は少し驚きだったのである。

一方の横島からするとあんな男の相手などしたくないのが本音だった。

木乃香達はいろいろと横島を勘違いしてる部分もあるが、元々横島は誰とでも話せば分かりあえるなどとは考えるタイプではない。

嫌いな人や合わない人とは関わらないタイプなのだ。


それに今の横島は世界の終焉を経験している。

普段は周囲に優しい人々ばかりなので目立たないが、横島の人に対する価値観は見た目よりも遥かに冷たい。

まあ今回は文句があるなら店に来るなと言わんばかりの、まるで頑固親父のような横島らしくない対応だったが。



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