平和な日常~秋~2

「もうすこしおまちください」

そしてフロアのタマモだが、店内で水を運んだり注文を聞いたりと十分戦力になっていた。

小さなエプロンを付けて一生懸命手伝うタマモの姿に、お客さん達も暖かく見守っている。

子供を働かせることに複雑な表情を見せる客も稀に居るが、実のところタマモは自発的にお手伝いをしているのだ。

これは以前からそうなのだがタマモは元々仲間外れが嫌いであり、自分だけ遊んでいいと言われると悲しそうな表情をしてしまったのが始まりである。

その結果横島や木乃香達がタマモに接客などの仕事を教えていた。


「今日もお手伝い偉いね、タマちゃん」

「うん。 みんながんばってるから、わたしもがんばるの!」

店内で食べる客の大半は学生であり、常連と言えるような客も結構多い。

タマモはご褒美とかおやつとか言われて時々ケーキを一口食べさせてもらうこともあるが、これも日頃から結構あることである。

この日も何度かケーキを食べさせてもらいながら頑張っていた。



一方新堂美咲の店では通常のスタッフに後輩のアルバイトを含め十人以上で営業していたが、こちらも行列が出来ており横島の店以上に混雑している。

六人のパティシエを使ってスイーツを作ってはいるが、販売スピードが製造スピードを越えるのは仕方のないことだった。


「新堂先輩、少しだけ厨房の映像撮らせて貰っていいですか?」

「手短にお願いね。 流石に今日は余裕がないの。 ところでマホラカフェの様子わかるかしら?」

そんな新堂の店には午前十時を過ぎた頃になると、報道部の取材クルーが訪れていた。

報道部は新聞である麻帆良スポーツの他にも、麻帆良市内のケーブルテレビに番組を幾つか持っている。

今回は料理大会関連の番組の取材に来たらしい。


「ああ、あそこも混んでるらしいですよ。 向こうも今日は臨時のバイトを入れてるみたいですけど、元々マスターが一人でやってる店ですからね」

取材交渉をしている報道部の生徒に新堂は横島の店の状況を尋ねるが、混雑してると聞くと少し興味があるような表情をしていた。

パティシエも料理人も専門技術は当然必要だが、今回のように急に客が増えた時などの対応力なども欠かせないのだ。

才能や力量があっても店の人気が出ると大量生産を優先して味が落ちたりして失敗する者も少なくはない。

木乃香に才能があるのは新堂も良く知ってるだけに、突然人気が出た木乃香の状況が少し心配になってるようだった。


「そう……」

「ただあそこは時期に雪広グループに委託するんじゃないかって噂ですけどね。 あそこのマスターは雪広グループと親交がありますし、自分で商売を広げる気はないみたいですから」

木乃香の状況が気になる様子の新堂だったが、報道部員から横島の噂というか裏情報を聞くとほっとした表情を見せる。

若い木乃香が突然人気が出て商売をするのは難しいし、出来ればもっとゆっくりと腕を磨いて欲しいと思うようだ。

横島自身があまり商売に熱心ではなく、情報通な人々は麻帆良カレーのように雪広グループに委託するのではと噂してるらしい。

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