平和な日常~秋~2

予期せぬタイミングで刀子が現れるが試合は淡々と続いていく。

相手のピッチャーは多少疲れてはいたがスタミナにはまだ余裕がある様子だし、何より横島の第一打席のセーフティーバントを根に持っていた。

第二打席はそれが影響してストライクが入らなかったが、彼はどうしても横島を三振に仕留めたいようである。


(ここまで来て負けるのもな……)

初回から下手に目立たぬようにと考えてばかりいた横島だが、負けたくないとの思いが少しずつ増していた。

他のみんなが全力で試合に挑む中、自分だけが全力で戦えない状況に横島は軽いストレスを感じている。

何より全力で戦った味方や応援してくれる人達の想いを横島は感じてしまうのだ。


(まっ、いっか)

いろんな想いが頭を過ぎる横島だったが、考えるのが面倒になったのか考えるのを止めてしまう。

そして次の瞬間にピッチャーが投げた球を、なんと普通に打っしまった。



それは今日一番の甲高い金属バット独特の打撃音であった。

投げた球は外角ボール気味のスライダーだったが金属バットの打撃音が球場に響くと、まるでプロのような凄まじい打球がバックスクリーンに深々と突き刺さる。

そのあまりに桁が違う打球にピッチャーは呆然としてしまい、野手は動くことなくボールを見送っていた。


「いや~、よく飛んだな」

面倒くさいことを考えるのを止めて球に合わせて軽く振っただけなのだが、本当によく飛んでしまい横島はスッキリとした表情になる。


「わー、すごいふぁーるだね」

一方応援席ではタマモに野球のルールを教えながら応援していたが、タマモはホームランを知らないらしくグラウンドから外れたからファールだと思ったらしい。


「タマちゃん、あれファールじゃなくホームランよ。 同点に追いついちゃった」

「そういえばマスター、始めてバット振ったんじゃない?」

正直応援席の人達も誰も予想してなかったホームランだった。

あまりの事態に球場は静まり返り、歓声が上がるのは横島がセカンドベースを回った頃である。


(相変わらず目立つの好きね)

そんな観客席の後方で試合を見ていた刀子は、横島がまた余計に目立ったことに苦笑いを浮かべている。

別に横島は好きで目立ってる訳ではないが、刀子から見ると目立つのが好きに見えるらしい。



その後試合は後続のバッターがあっさりと連続ヒットを打ち、サヨナラ勝ちになってしまう。

プロの公式戦も年に数回行われるほど広く立派な麻帆良学園第一野球場で、バックスクリーンに完璧なホームランを打たれた時点でピッチャーの気持ちは完全に切れていた。


最後に中等部保護者チームは優勝チームとして記念撮影をするが、今度はタマモだけではなく美砂達や応援していたメンバーも何故か一緒に記念写真を撮って終わる。

しかもタマモはやはり真ん中で、堂々と優勝トロフィーを持って写真に写ってしまう。

そして今回の体育祭でミニ四駆大会に続いて野球大会までも優勝者と一緒に写真に写ったタマモは、少しずつその存在感を増していくことになる。



26/100ページ
スキ