平和な日常~秋~2

(マジかよ……)

流されるまま野球をするハメになった横島だが、着替えてベンチに入るとすぐに試合が始まってしまう。

同じチームになるメンバーに野球経験を聞かれたので、小学校の頃に少しだけあると言うと横島は外野に回されホッとする。

正直横島としては野球なんて、本当に小学生の頃しか経験がなくイマイチ自信がない。


(足を引っ張るのもまずいし加減が難しいんたよな)

タマモや美砂達が応援を始めたので観客席は一段と賑やかになるが、横島はうまく加減が出来るかで頭を悩ませる。

基本的な技術のないスポーツで手頃な動きを出来るのか、正直横島もよく分からない。


「相手ピッチャーは社会人のチームに所属してる本格派だ。 スライダーとフォークに気をつけてくれ」

そのまま試合は進むが幸いなことに横島にはボールが来ないまま、三回裏の打順が回ってくる。

相手は小等部の保護者チームでピッチャーが社会人の本格派らしく、今まで中等部チームは誰も打てぬまま九番の横島に打順が回って来た。


「マスター、頑張って!」

横島が打席に入るとタマモや美砂達が一段と声を上げて応援してくれるが、横島は正直加減が分からなくて表情が冴えない。

どうも相手のピッチャーはそれを緊張してると解釈したらしく、ニヤニヤと少しナメたような表情をしている。


(とりあえずバットに当てるのは問題なさそうだな)

初球はインサイドのボール球でデッドボールになりそうな球だった。

球速も132キロと表示されており、どうやらわざとギリギリに投げて脅かしてやろうとしたらしい。

横島は相手ピッチャーの投球フォームを初回から見ていたので、フォームに乱れもなくわざと投げたのに当然気付く。

美砂達やタマモのおかげで一段と応援が多い横島が相手は気に入らないようである。


(社会人のピッチャーってセミプロだろ? 素人相手に大人げないな)

相手のデッドボールスレスレの球に横島は全く反応しないまま見送ったことで、相手はどうも横島が全く反応出来なかったのだと悟り余裕の表情を僅かに見せた。

ただ横島にはとって130キロ台の球など本当に止まって見えるようなもので、ぶっちゃけ目を閉じても当てる自信がある。


(せっかく応援してくれてるしな~)

とりあえず問題なのは打った時にきちんと加減が出来るかであった。

正直加減を間違えて場外ホームランなんかは避けたいし、間違って打球が野手の反応出来ないスピードになっても困る。

まあそこまで考えるだけならば打たなきゃいいとも思うかもしれないが、相手の大人げないピッチャーは好きになれないし、せっかく応援されてるのにちょっとはいいところを見せたいとの欲もあった。

そして相手がナメてカウントを取りに来た二球目、横島はサードの守備位置を見て一瞬ニヤリとするとサードのライン際にセーフティーバントをして一塁に走っていく。

打つ加減に自信がない以上は球が跳ばないようにすればいいと考えた横島は、油断しきったサードのライン際にセーフティーバントを試みていた。

しかもボールはちょうど横島が狙ったサードとホームの中間地点のライン上に止まり、サードがファールになると見送った為に楽々一塁セーフになる。



24/100ページ
スキ