平和な日常~秋~2

その頃葛葉刀子は数人の若い魔法使いと一緒に図書館島に来ていた。


「ここは立入禁止区域です。 直ちに立ち去りなさい」

そこはかつて図書館の旧館があった場所であり、今も廃墟と化した煉瓦が一部には残っている場所である。

普段は人が来るような場所ではないが図書館島の地下への入口があるため、地下に侵入しようとする者が時折現れることがあった。

そんな刀子達の前に居るのは無数の蝙蝠達である。

蝙蝠達は刀子の警告を無視したかのように地下への入口に向けて動き出す。


「警告の無視を確認したので攻撃します。 一匹も逃がさないように殲滅しなさい」

闇夜の空を音もなく飛ぶ蝙蝠達は、当然普通の蝙蝠ではない。

刀子が若い魔法使い達に攻撃を指示すると、呪文を唱え始め魔法による攻撃を始める。

魔法の矢や初級魔法を用いて蝙蝠達を次々に殲滅していく若い魔法使い達だが、流石に全ての蝙蝠を殲滅することは出来ない。

彼らが取り逃がした数匹の蝙蝠は、刀子が野太刀を抜いて危なげなく切り捨てていく。

結果僅か数分で数十匹は居た蝙蝠達は殲滅されていた。


「お疲れさまです、今日はどこの工作員でしょうね」

「どうせ雇い主も知らない小物よ。 いくら使い捨ての人造使い魔でもこんな馬鹿げた使い方をするなんて、正規の工作員の仕事じゃないもの」

全ての蝙蝠を殲滅が終わると若い魔法使い達は殲滅した蝙蝠の残骸を集めるが、それは魔法世界で流通している蝙蝠型人造使い魔の人形の破片であった。

刀子は彼らに破片を纏め処分を指示すると周囲を警戒するが、どうやらそれで全てのようである。

若い魔法使い達もやれやれといった表情だが、今回のような嫌がらせ目的の問題処理は若い魔法使い達の一番多い仕事であった。

実際あの蝙蝠型使い魔が重要機密を盗める可能性は万に一つもない。

地下や重要施設は使い魔や式神による外からの干渉を防ぐ特殊な結界が張られており、侵入すら不可能なのだ。

にも関わらずあの手の使い捨ての使い魔や式神が現れることはよくあることであり、目的は魔法使いの実力の調査か嫌がらせでしかない。


「魔法使いなんてやってると、本当に安全がタダじゃないんだって実感するね」

「だよな。 俺なんかは雪広グループか那波グループの就職紹介してくれるって言われて、参加したんだけどいろいろ考えさせられるよ」

後始末が終わると刀子達は見回りを続けるが、若い魔法使い達は緊張感があまりないらしくおしゃべりしながら歩いている。

刀子も見回りに問題が起きない程度のおしゃべりなどは基本的に注意せずに、自身が加わることもあった。

本来は規律正しくするべきなのだろうが、魔法協会はあくまで任意参加団体なのであまり規律を厳しくすると人が集まらないのだ。

実際近右衛門などの幹部からすると下手に魔法使いとして理想が高過ぎる者よりは、比較的扱いやすいとのメリットがある。

関東魔法協会所属魔法使いとしての義務や仕事はしなければならないが、僅かだが報酬も出るし何より真面目に参加すると雪広や那波などの一流企業に推薦して貰えるメリットも大きかった。


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