平和な日常~秋~2

一方午後も麻帆良の各地では各種競技が順調に進んでいた。

惜しくも敗れた者も当然居るが、応援に回るなどしてそれぞれに楽しんでいる。

そんな中で横島とタマモは、料理大会会場に到着していた。


「いいにおいがする」

「今は中華の準決勝やってるらしいからな~」

料理大会の会場付近は近付くだけで美味しそうな匂いが漂っている。


「まーぼーどうふだ!」

クンクンと匂いを嗅ぐタマモは、一瞬で匂いの元の料理をすぐに見抜いてしまう。

中華の香辛料や香ばしい匂いは人間にも分かるが、タマモの場合は離れた場所からでも複数の匂いから料理までかぎ分け出来るらしい。


「美味そうだな~ 今夜は中華にしようか?」

タマモを肩車しながら横島が会場に入ると、ちょうど会場では中華部門の審査結果の発表をしていた。

結果は事前の予測通りであり、超と五月と他一名の三人が明日の決勝に進出する。



「いよいよだな」

「がんばって!」

そして横島とタマモは、準決勝を前にした木乃香と会っていた。

横島が声をかける中、タマモは木乃香に抱き着いて笑顔を見せている。

はっきり言うとタマモは大会というものをあまり理解してないが、やれば出来ると信じてるのは一番かもしれない。


「みんな凄かったわ~」

「いつも通り作ればいいって。 間違っても技術で張り合ったらダメだからな」

一方の木乃香は今朝からいろいろな料理を見て、レベルの違いに素直に驚き戸惑っていた。

準決勝まで進む者は当然ほとんどが長い修行を積んでる者ばかりであり、総合的な技術のレベルはやはり木乃香よりも数段上な者がほとんどである。


「二週間の一夜漬けだからな。 勝ったら儲けものだよ」

「うん、頑張ってくるわ」

最終的に横島は木乃香に技術を気にするのではなく、いつも通り作りたいように作るようにとのアドバイスをして送り出す。

予選で指摘された盛り付けに関しても横島は気にしないようにと言うなど、いつもの木乃香のペースを乱さないことを重要視していた。


「木乃香は勝ち上がれるでしょうか?」

その後観客席に居た詠春と合流する横島だったが、詠春は横島を見るなり不安そうな表情で状況を尋ねる。

これが剣術や格闘技ならば詠春も分かるが、やはり料理大会は予選同様に読めないらしい。


「正直なとこ五分五分ですかね。 相手は何年も修行して来たプロか見習いですし。 ただ普段通りの実力を出せれば勝機はあるんですけど」

詠春に状況を説明する横島だが、勝負の分かれ目はどんな料理が課題となるかとやはり木乃香が実力を出せるかであった。

いかに木乃香に才能があって横島が的確に教えても、本格的に教えた二週間では出来ないことも多い。

予選の時も説明したが見た目や盛り付け技術では勝負にならないのだ。


「あとは運ですかね。 勝負事には運が必要ですから。 はたして木乃香ちゃんが運を呼び込めるかどうか」

横島の言葉を聞き祈るように会場を見つめる詠春に横島はやはり親はいいものだと感じるが、そんな横島もまたドキドキとした緊張感を感じている。

正直自分のことではめっきり緊張感を感じなくなった横島が、これほど緊張感を感じるのは最近は木乃香の予選くらいだった。


(大丈夫だ。 きっと木乃香ちゃんも継いでるはずだ。 美神さん譲りの運をな)

そしてこんな時に誰よりも強い運を持っていたのは令子であり、横島もまたそれを継いでいると思っている。

分野がGSから料理に変わっても、令子から横島受け継がれた運の良さはきっと木乃香も受け継いでいるはずだと横島は祈るように考えていた。



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