平和な日常~秋~2

「コースレコードだと……」

そんなミニ四駆大会にしては異質な雰囲気の中で横島の初戦が行われるが、あっさりとコースレコードをたたき出すと嫉妬のブーイングが静まり返る。

横島は初戦なので愛車ペガサスを手堅いセッティングにして勝負に挑んだが、世界は違えど全国大会三連覇の実力は健在だった。

そのあまりの結果に対戦相手は呆然とするしかない。


「マスター、やったじゃん」

事前情報もまるでない飛び入り参加のような横島の記録に会場は騒然とするが、美砂達やタマモからするとさほど驚きもなく順調な初戦である。

美砂・桜子・タマモの三人が人目も気にせず横島に抱き着くと一部の大学生からは再び嫉妬めいた視線が集まるが、横島は満更でもない表情をしており当然嬉しそうだった。


「初戦でコースレコードなんて初めてですよ。 大学部のサークルの中には空気抵抗まで本格的に研究してる人達も居るのに……」

「確実に上位に食い込む自信はあるって言っただろ」

大会は始まったばかりだが、横島はすでに注目を集めている。

先程までは嫉妬の視線が大半だったが、コースレコードを出すと純粋にライバルとして警戒する者も現れ始めた。

当の横島は美砂と桜子に抱き着かれてデレデレとしており緊張感など皆無なので、周りの参加者とのギャップが激しいが。


「それにしても子供のおもちゃだと思ってたのに、意外に大人が多いわよね」

横島以外の緊張感溢れる参加者達は横島の記録により、それに対応する為に一層ピリピリとするが一番ピリピリとしているのは大人である。

大学生の参加も多いが小学生などはサポートとして父親と一緒に参加している者も多く、どちらかといえば父親の方が真剣な様子だった。

円が子供のおもちゃとつい口を滑らすと、周囲から厳しい視線が集まり思わず横島の影に隠れる。


「みんな真剣なんですよ。 大学生の中にはおもちゃで研究論文を書く人も居ます。 こういった技術から日常に役立つ技術が生まれることもありますから」

周りの参加者達の価値観を理解出来ない美砂達に、葉加瀬は参加者達の価値観を説明するが美砂達からすると半信半疑な部分が多い。

ただ麻帆良学園の自由な校風は大学部でも変わらず、個人がそれぞれに好きな研究をする者も少なくないらしい。

実際大学生達の自由な研究により麻帆良祭の各種個性的なアトラクションが生まれた事実もあり、アトラクションやその関連技術から生まれる収益はまた彼らの研究資金となる。

麻帆良学園を中心に雪広や那波などの多数の協力企業の支援や協力体制があっての環境ではあるが、豊富な資金と自由な環境は日本人では難しいとも言われる独創的な発明に繋がることも少なくなかった。


「へ~、なんか見てるとただ楽しんでるようにしか見えないけど……」

葉加瀬の説明を興味深げに聞く横島と美砂達だが、横島の次の試合まではまだ時間があり持参したお茶とお菓子で休憩している。

ただミニ四駆会場でお茶やお菓子を持参して和気あいあいとしてる横島達はやはり目立っているが。

ちなみにタマモは横島の膝の上に座りご機嫌な様子でお菓子を頬張っていた。



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