平和な日常~秋~2

その後横島は参加登録をして各種説明やルールの確認をしていた。

基本的にはオーソドックスなミニ四駆大会なのだが、ルールが若干厳しく改造には細かな制限がなされている。

変わったルールとしては、コースを破壊したら失格になるというルールもあった。

恐らくコースを破壊しても勝とうとした馬鹿が居るのだろう。


「相変わらず目立ってますねー すぐに分かりましたよ」

ルールを確認した横島はタマモや美砂達が見守る中でセッティングを始めるが、そんな時やって来たのは葉加瀬である。

恐らく横島の大会が気になって来たのだろう。


「うわー、それプテラノドンXですよね!? なんで持ってるんですか!?」

正直美砂達はミニ四駆にはあまり興味がないらしく物珍しそうに見てるだけだったが、葉加瀬は横島のマシンを見て驚き騒いでしまった。


「プテラノドン? なにそれ? 恐竜?」

「プテラノドンXは1989年に限定生産された幻のミニ四駆なんですよ! 現在だとプレミアムもついてるほどです!」

日頃あまり感情の起伏が激しくない葉加瀬の高いテンションに美砂達は驚くが、嬉々としてプテラノドンXを説明されても正直何故そこまで驚くのか理解出来ない。


「よく分からないけど、マスターが普通じゃないのは今更じゃない?」

「確かに普通だと逆に驚くかも」

驚く葉加瀬と対照的に横島を良く知る美砂達からすると、横島が普通な方が驚きであり少々珍しい物を持っていてもあまり驚かないようだ。

ただ周囲の人々の視線はプテラノドンXの名前が出て以降は余計に厳しくなっており、美砂達は若干引いてしまう。


「ねえ、マスター。 周りの人達怖いんだけど」

「みんな真剣だからな~」

周りの人々の厳しい視線になんとなく居心地が悪い美砂達は横島とコソコソと話をするが、それもまた周りから見るとイチャイチャしてるようにしか見えない。

横島は横島でセッティングに忙しく正直周りの視線を無視していたが、葉加瀬のワクワクとした表情には苦笑いしか浮かばない。



そのまま思いっきり場違いな空気を醸し出す横島達だったが、試合になると更に空気は冷たくなる。

何故か男の大学生を中心に横島の出番になるとブーイングが起きるのだ。
「マスター、頑張って!」

「勝ったらご褒美あげるよ~」

そんな横島への嫉妬めいたブーイングが不愉快だったのか、美砂と桜子は彼らのブーイングを掻き消すように応援を始める。

元々チアーリディング部の彼女達は大声での応援に慣れていたこともあるし、男ばかりのブーイングの中で美砂達の声は気持ちがいいほど響いていく。


「お前のような女の敵には負けん!」

初戦の横島の相手は今にも血の涙を流しそうな様子で横島を女の敵だと決め付けるが、悲しいかな女の子の声援があるのは横島なのだ。


(乗り遅れた……)

会場はいつの間にか美砂達VSモテない大学生のような形相になってしまい、彼らのブーイングが気に入らない無関係な人々が美砂達と一緒に横島の応援を始めるなど横島自身は完全に置き去りにされて勢いに乗り遅れていた。

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