平和な日常~春~

その日の夜八時を過ぎた頃、店には刀子が再び来店していた

初来店以来微妙に恥ずかしくて来てなかったのだが、あまり気にしすぎる必要もないと考えたのか再び来ている

今日は七時過ぎには来て夕食を食べた後、学校の仕事の残りを片付けるべくノートパソコンで作業をしていた


そんな魔法使いと教師の両立をしている刀子だったが、その仕事はハードで忙しい

元々教師という仕事だけでも、かなりハードな仕事の部類に入る

通常の授業などに加えて部活の顧問なども受け持つ事が普通で、忙しい教師だと休みもロクにないほど忙しいのだ

刀子もまた複数の部活の顧問を受け持っているが、幸いにして比較的暇な部類の顧問だけである

しかし魔法使いと教師の両立がある為、彼女の仕事は普通の教師よりも忙しい


「閉店は何時なの? まだ大丈夫ならコーヒー貰えるかしら?」

時計をチラリと見た刀子はそろそろ閉店かと時間を気にかけるが、横島は閉店時間は決まってないからとコーヒーを入れる


「閉店時間決まってないの?」

「気分次第で開店してる店なんで、時間も休日も決まってないんっすよ。 美人のお客さんの為なら何時でも大歓迎っすから、ゆっくりしてって下さい」

時間が決まってないと言う横島に刀子は少し驚きの表情を見せるが、まるでナンパのように軽い調子で大歓迎だと言う横島には苦笑いを浮かべてしまう

実は刀子は軽薄な男は嫌いなのだが、横島には何故かあまり嫌悪感を抱かなかったのだ

それにあまりに自然に美人だと言う言葉には少し恥ずかしくなるが、褒められて悪い気がするはずはなかった

まして横島は軽い割には口説く感じではない訳だし……


そのまま刀子は再び仕事を続けるが、横島は相変わらずカウンター席に座り一人でウイスキーを飲んでいる

時間的に客は刀子と仕事帰りのサラリーマンだけなのだ

はっきり言うと暇だった


(かなりの実力者なのに、学校の先生をやって忙しく働いてるとはな…… 正直もっと楽に稼げるだろうに)

ウイスキーの入ったグラスに反射して見える刀子の姿に、横島はふと考え込んでいく

オカルトが秘匿された世界とはいえ、刀子がその気になればもっと楽に稼げる仕事があるはずなのだ

それは麻帆良の魔法使い全般に言える事だが、わざわざ教師という忙しい仕事を選びボランティアに近い形で組織に属して働く姿は少し不思議だった


(美神さんじゃないけど、世の中を動かす原動力の大部分は金だしな。 あの人達が働いた分の金は何処に行ってるのやら……)

かつて令子はこの世を動かしてるのは金だと言ったが、人間界に限定すればあれは間違いではない

そして一般的じゃない魔法の力は貴重であり、金になるのはこの世界でも変わらないだろう

魔法使い達が善意で働いた分で得られるはずの資金が何処に行ってるのか?

横島は基本的にお金をあまり欲しいとは思わないが、麻帆良の魔法使い達の善意のお金が何処に流れてるかは些か気になっいた


(あかんな。 俺には関係がない話だわ)

いつの間にか不要な事を考えていたと一人で苦笑いを浮かべてしまう横島だが、世の中には善意を利用する愚か者が多い

彼らの善意を誰かが利用してるのではと、少し気になっていたのである

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