平和な日常~秋~

「やりましたね」

「予選通過確実じゃない?」

予選が終わった木乃香は早々に横島達と合流するが、応援に集まっていた少女達はすでに予選通過が決まったかのような喜びようである。

実際に審査は半分も終わってないのであくまでも順位は暫定だが、昨年のトップと同じ点数なのだから準決勝進出は確実視されていた。


「予選通過したら夕方にもう一度来ないとダメみたいなんよ。 取材と説明会があるんやて」

この後には超と五月の予選もあるので観客席で横島達と一緒に試験を見守る木乃香だが、どのみち順位が決まるまでは帰れないらしい。

予選通過者には夕方から準決勝の説明と予選の取材が予定されてるのだ。

準決勝以降は例によってトトカルチョの賭けの対象にもなっているし、予選の上位入賞料理は報道部による特集記事として新聞に載る予定だった。


「それにしても切り札がまさか飲み物だったとは思わなかったわ」

「こんな大会に出て来る連中はみんな料理が得意だろうし、予選はみんな自信のあるスイーツだからな。 差別化するには飲み物が重要になる。 飲み物単体では評価対象外だけど、スイーツとの相乗効果までは否定出来んしな」

木乃香と合流後も一同は他の参加者の審査を見守るが、審査員が飲み物に反応したのは木乃香の時だけである。

明日菜はスイーツの大会で飲み物が切り札だと言い切る横島に改めて驚くが、当然それは横島なりに勝算があっての考えだった。

何より木乃香の実力をよく知るが故に、それを最大限にアピールする為に選んだに過ぎない。



「エントリーナンバー068。 九十三点で暫定一位になりました!」

そのまま大会を見守っていた横島達だが、木乃香の評価を大きく越える者が現れると会場にどよめきが走る。

それはあと二点で歴代の予選の最高点に並ぶものだった。


「あの人は昨年の優勝者ですね」

「綺麗やわ~」

木乃香の点数を上回ったのは昨年の優勝者であり、その点数とスイーツの素晴らしさに2-Aの少女達や木乃香は素直に魅入ってしまう。

木乃香との違いはやはり美しい盛り付けである。


「あれは飴細工か。 他の参加者とはレベルが違うな」

去年の優勝者のスイーツは何より盛り付けの素晴らしさが際立っており、それはフランス料理のデザートのようだった。

飴細工を使った華麗なデコレーションは、今の木乃香には真似出来る代物ではない。

この二週間木乃香は特訓をしたが、内容は主に味に関してでありデコレーションや盛り付けに関しては手付かずである。

元々横島の店では日頃はさほどデコレーションや盛り付けに凝ってる訳ではなく、その手の経験が少ないことも木乃香の経験不足の要因であろう。


「ねえ、あの人こっち見てない?」

「まさか~、偶然でしょ」

昨年の優勝者のスイーツを見て横島は準決勝以降の対策を考えていたが、応援に来ていた美砂が優勝者の視線が木乃香に向いてることに気付く。

円は偶然だろうと笑っているが、昨年の優勝者である女性は確かに木乃香を見つめている。



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