平和な日常~秋~

さていよいよ体育祭前日となる次の日だが、麻帆良では続々と予選会が行われていた。

体育祭自体は十月十日と十一日の二日間だが、種目の規模が大きくなればなるほど予選に時間がかかる。

古菲の出場する格闘大会も木乃香や超や五月の出場する料理大会も今日から予選だった。


「みんなピリピリしてるな~」

「技術系の大会は将来が掛かってますからね」

この日横島は夕映達や千鶴達と一緒に、料理大会の予選会場となる高等部の調理科がある校舎を訪れていた。

しかし会場の雰囲気は予想以上にピリピリしており、ほとんどが高校生や大学生である。


「木乃香大丈夫かしら」

まるで試験前の会場のような雰囲気に明日菜や夕映達は木乃香を心配するが、横島はタマモを肩車したままいつもと同じく緊張感はない。


さて予選に関してだが、出場者総数は五百八十名にも達しておりスイーツ部門での出場者は百二十名である。

このうち準決勝進出者は十名であることから、この大会の厳しさが分かるだろう。

過去の中学生の戦績は予選通過者だけでも一握りであり、まさしく狭き門になっていた。


「うひゃ~、みんな凄いわ」

そしていよいよ予選に挑む木乃香は、調理科の調理実習室に入り真剣な大会参加者に改めて驚いている。

ただこの予選に関しては食材を各自で持ち込み得意なスイーツを作る仕組みなため、木乃香にも十分勝機はあった。

木乃香の食材なんかは横島が車で運んで来たので、すでに準備は万端である。

あいにく予選会場は観客などが入れる場所はないのでみんな淡々と調理をしているが、審査する場所は同じ校舎の中にある講堂だった。

横島達は講堂で木乃香が来るのを待つことになっている。


「では女子中等部二年A組近衛木乃香さん、調理に取り掛かって下さい。 制限時間は二時間です」

持って来た食材を指定された調理台に運んだ木乃香に、大会実行委員の生徒がルールの説明をして調理が開始となる。

調理の制限時間は二時間であり、それに合わせなくてはならない。

ただ食材に関しては仕込み済みの食材もある程度認められており、スイーツ部門で言えばジャムなんかが事前に仕込みが可能であった。


(ウチこんなこと始めてやわ)

さっそく調理開始する木乃香だが、手順はすでに何度も練習したため不安はない。

調理器具も全て事前に横島達が用意して使った物なだけにこちらも不安はないが、木乃香はこの時になって始めて横島が調理器具まで揃えた意味を理解する。

限られた時間と緊張感に包まれる中で慣れない調理器具で料理をするのは簡単ではない。

すでに近くで調理をしていた高校生などは、スポンジ生地の焼きが上手くいかないらしく困っていたのが見えていた。

正直木乃香は今までも緊張は感じていたが、本番の緊張感はそれを遥かに越えている。



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