平和な日常~秋~

同じ頃、体育祭の武道大会に出場する古菲の修業も熱が入っていた。

七月の末の龍宮神社の一件で気に出会い豪徳寺や高畑に学んだ古菲は、僅か二ヶ月で初歩的な気を扱う術を身につけている。

元々《気》を使う下地は中国拳法で学んでいただけに、その習得スピードは高畑をも驚かせるほどだった。

最も古菲が短期間で学んだのは、初歩中の初歩である自身の体内の気を感じることと高めることだけだったが。

そもそも《気》に関しては突き詰めると果てしなく奥が深く、その最終形は斉天大聖のような仙人であろう。

体内の気である《内気》と体外の気である《外気》いわゆる魔力を陰陽含め完璧に扱うようになるのが最終的な理想ではあるが、この世界の現代にはそんな仙人クラスの術者が居るはずもなかった。

ただ関西呪術協会など一部には内気と外気の双方を扱える術者はいるが、それもさほど数が多い訳ではない。


「凄いな。 まさか二ヶ月で気をモノにするとは……」

「伊達に去年のチャンプじゃないな」

この日古菲は豪徳寺や彼の格闘仲間数人と一緒に修業をしていたが、ここ二ヶ月古菲の成長を見て来た豪徳寺は半ば呆れたように古菲の成長を見守っている。

豪徳寺自身も独学で気を習得しただけに才能もあり努力してきた方だが、古菲を見てると才能の違いを感じずにはいられない。

格闘仲間達も何度か一緒に修業していたが、彼らも古菲に一度も勝てぬままだった。

まあ豪徳寺達は古菲に気について教えると同時に、組み手などで逆に古菲から学ぶことも忘れない根っからの格闘バカである。


ちなみに余談だが夏休み期間中の麻帆良では古菲と豪徳寺が一緒の姿をよく見かけるようになり、古菲と豪徳寺が付き合い出したのかと麻帆良の格闘系団体の武道派連中が騒いだこともあった。

その筋にはカルト的な人気がある古菲なだけに、男性と一緒に居ただけで勝手な憶測が生まれてしまったようである。

しかも相手が強さでは結構有名な豪徳寺とあれば、誤解するのも無理はない。

その結果豪徳寺には武道派の男達が勝負を挑みに次々にやって来るという事態も起きたが、格闘バカの豪徳寺はそれを嬉々として喜び返り討ちにしていた。

最終的には噂はデマであり古菲が豪徳寺の実力を気に入り修業してるだけだとの真実が広まるが、実は真実を知った今でも豪徳寺に勝負を挑む者はあまり減ってない。

どうやら豪徳寺に勝つと古菲と一緒に修業出来るだろうと勝手に考えてる輩が相当多いのが原因らしい。

そんな訳で相変わらず麻帆良では目立ってる古菲のせいで、最近は豪徳寺も一緒に目立っている。

事態を知っている高畑は彼らが下手に気を広めないかハラハラしているが、今のところ広まってないようだった。


ちなみにこれもまた余談だが古菲と豪徳寺の一件を噂として聞いた横島は、古菲とだけは下手な噂にならないようにしなくてはと心に誓ったとか。

まるで道場破りのように格闘系バカが店に押し寄せてくる姿が目に浮かぶようだったのかもしれない。



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