平和な日常~秋~

一方この日の午後は麻帆良学園全校合同で体育祭の準備をするのだが、一部の競技はではすでに予選会が始まっていた。

取り分けビーチサッカーやソフトボールなどの団体競技は一試合ごとの時間がかかることや、連戦が難しいことから体育祭の数日前から予選会が行われている。

他には飛行機レースやモーターレースなども、日程の都合上予選が本番前から行われた。



「なかなか似合ってるな。 サイズも大丈夫そうだ」

「なんかプロになったみたいやな~」

そんなこの日2-Aの少女達は予選会に出場する者や本番に向けて練習の追い込みを行う者と、横断幕などの応援グッズを作る者に別れている。

当然木乃香は料理大会に向けて追い込みの為に横島に店に来たのだが、実はこの日は木乃香が本番で着るパティシエの服を横島が用意しており試着をしていた。


「去年の出場者はみんなきちんとした服着てたからな~。 本番ではそれを着るといい」

初めて着るパティシエの服装に木乃香は最初こそ驚いていたが、結構気に入ったらしく嬉しそうだった。

実際木乃香は本番では私服にいつものエプロンで出場するつもりだったが、そもそも料理大会は出場者の大半がプロかセミプロなため予選を通過するような者はすべて本格的な服装だったのである。

横島は木乃香が恥をかかないようにと数日前からハニワ兵に頼んで作ってもらっていたのだ。


「嬉しいけど、ここまでせんでもよかったんやないの?」

「見た目も重要だぞ。 もし同じくらいの力量だったら作った奴の見た目とか服装なんかで勝敗が決まるかもしれんしな」

本格的な服装に喜ぶ木乃香だが、同時に少しやり過ぎではとも感じる。

そもそもこの件で横島は本番用の器材を用意したし練習用の食材も大量に用意していた。

まあ器材はほとんどはあやかと千鶴のツテで借りたのでさほどお金はかかってないが、食材はあやか達も横島も結構お金を使っている。

木乃香とすれば少し心苦しいのだが、そもそもの問題として横島がこれほど勝ち負けにこだわるのは木乃香ですらも予想外だった。


「やるからには最善を尽くさんとな。 包丁は慣れたのが一番だから店のやつ持っていけよ」

パティシエの服装の木乃香に横島は満足げに頷いており、本番に向けた最終チェックをしていく。

包丁などの持ち込み出来る道具は全て店から持って行かせるらしい。

横島とすればこれも木乃香用に新品を揃えようかとも考えたが、木乃香が本格的にプロ目指す訳ではないので自重したようである。


「親父さんも本番見てくんだろ? このくらいしなきゃダメだって」

「そうやな。 ウチ精一杯がんばる」

元々勝ち負けにはあまり熱心でなかった木乃香だが、父が体育祭は見て帰ると言っていたのでやる気を出していた。

それというのも木乃香の料理大会出場を聞き、誰よりも喜んで楽しみにしているのは父である詠春なのである。

父に成長した姿を見てほしいとの想いで木乃香はこの日も予選に出すスイーツの試作と改良を続けることになる。


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