平和な日常~秋~

「不始末だな。 テルティウム」

「発見される要素は全くなかったよ。 第三者が介入したとしか思えない」

一方イスタンブールで予期せぬまま存在を知られていたフェイト・アーウェルンクスこと本名テルティウムは魔法世界に戻っていたが、フェイト以外で唯一残る完全なる世界の幹部であるデュナミスは不機嫌そうだった。


「可能性があるのはゲーデルか? 奴の失脚は偽装だったのかもしれんな」

主を失って以降の約十年の間、彼らはメガロメセンブリアの取り分けクルト・ゲーデルによる徹底的な追跡との戦いだったのだ。

組織の再編も協力者も片っ端から潰されて来た彼らからすれば、今回の件もクルトの仕業かと考えるのは当然だろう。


「僕もそうだと思ったんだけど、連合の混乱も普通じゃない。 まあこれも罠だとも考えれるけど」

「おのれ……。 ゲーデル。 しかしこれがゲーデルの罠だとすれば、タカミチがここに来るのも時間の問題か」

二人の意見はほぼ一致しており、今回のフェイト発見の件の黒幕はクルト・ゲーデルだと考えているようだ。

そして今までクルトの暗躍に合わせて動いていたのは高畑である。

実際この十年クルトは裏方に徹して組織力で完全なる世界を追い詰め、高畑が実行部隊としてトドメを刺していた。

フェイトとデュナミスが高畑を警戒するのは当然だろう。


「問題はこれで主と姫御子の捜査が更に難しくなるということだね」

「難しくてもやらねばならん。 残る期限は少ないのだぞ」

「わかってるよ」

二人の前途は多難であったが、最早頼れる者もいないし時間も多くはない。

しかし二人はそれでもやらねばならないし、止まれるはずもなかった。



一方彼らに誤解されたメガロメセンブリア側だったが、フェイトが話した通りこちらは混乱の真っ只中である。

元老院の一部は創造主の復活も想定して動いており、早くも逃げ出す準備に掛かってる者も居るほどだ。

また元老院は地球側魔法協会や魔法世界の各国との協力体制の構築も目指していたが、こちらは元老院陰謀説の弁明ですら胡散臭い目で見られる始末だった。

魔法協会も魔法世界の国家も大きな枠組みでの協力が必要だとの認識は一致するが、主導するのがメガロメセンブリアならば麻帆良などの反メガロ勢力だけでなく中立的な魔法協会も反応は芳しくない。

基本的に地球側の魔法使い達は再び魔法世界の争いに巻き込まれるのを極度に警戒しているし、秘密結社完全なる世界は過去に地球側魔法協会と敵対したことがないので危機感も薄かった。

魔法世界の国家に関しては、そもそも大国であるヘラス帝国は元老院の陰謀かと疑っている。

それに仮に陰謀でなくとも大戦後にナギとアリカ失脚の陰謀の実例もあるので、連合主導の協力体制などに加わる意思はない。

他に第三勢力の筆頭であるアリアドネーに関しても当然元老院を疑っているが、加えてこちらは連合と帝国の勢力バランスを変えるのを警戒しているので、帝国が加わらないならば加わりたくても加われない事情がある。

はっきり言うと地球側魔法協会も帝国もアリアドネーも、メガロメセンブリアを全く信用してなかった。

仮に陰謀の潔白が証明されても、ナギやアリカの例があるので信用など出来るはずがない。

正直言えば大戦後から二十年近くなる現状まで魔法世界の国々の関係が、ほとんど変化しなかった根本的な原因はそこにある。

結果魔法世界や地球側魔法協会は、互いの勢力がそれぞれに対策を立てることで進むしかなかった。



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