平和な日常~秋~

「私とお義父さんを恨むなら恨んでくれて構いません。 貴女を十年騙し続けていた訳ですし。 ですが今しばらく私達に時間を下さい」

今日の真実の告白に際して、近右衛門と詠春は最悪はエヴァに殺される覚悟もしている。

しかしその一方では和解して味方になって欲しいとの打算ももちろんあった。

どのみちエヴァの封印を解く前には伝えねばならない真実なのだから、エヴァが多少でも前を向いてから封印を解く前までが伝えるベストなタイミングだとは考えていたのだ。


「今更貴様らを恨んでなんになる? 私を殺した方が早かっただろうに」

真実の裏にある打算にエヴァはもちろん気付いていたが、それでも詠春が本気で命を懸けて今真実を明かしてるのは理解している。

この場に居ない近右衛門にしても、封印されたエヴァならば再生も出来ないのでいつでも殺せるし殺した方が早かったのはエヴァ自身が一番理解していた。

詠春や近右衛門を許す気もないが恨む気もない。


「結局ナギに負けた私が悪いだけだ。 それにもう私はあの男に関わる気はない」

結局エヴァはもう過去のことだと言い切り話を終えてしまう。

詠春もエヴァもどこか後味の悪い話だったが、現状を考えれば当然だろうし仕方ないことである。

そのまま詠春は夜の街に帰っていくが、ナギの残した問題の多さに深いため息をついていた。



「いらっしゃい、酒か?」

「ああ」

一方のエヴァもまた詠春が帰った後に魔法薬を使った大人バージョンでふらりと街に出て行き、なんとなく横島の店に入っていた。

そんなエヴァを横島はいつもと変わらぬ様子で迎えるが、厨房からは木乃香やタマモの笑い声が聞こえる。


「今日はとっておきのやつだぞ」

最早指定席となっている店の一番奥のテーブルに着いたエヴァに、横島は何故かいつもは出さないような一本十万はする酒を持って来ていた。


「じゃあ、ゆっくりして行ってくれ」

高級な酒に合わせるようなつまみを幾つか持ってくると、横島はそのまま厨房に戻っていく。

それはいつもと変わらぬ様子ではあったが、どこか違う横島とエヴァのやり取りである。


「凄い美人ですね」

「昼間には見いひん人やな~」

その頃木乃香達は、厨房の入口から見えた大人バージョンのエヴァに驚いていた。

日本人離れしたスタイルと美貌は木乃香達も思わず見惚れるほどである。


「横島さんの知り合いでしょうか?」

のどかと木乃香がその美貌に見惚れる中、夕映はまさか彼女が横島を騙した女ではと邪推してしまう。


「時々夜に来るお客様ですよ」

心配そうな夕映にさよは時々夜にだけ来る客だと教えるが、実はさよは大人バージョンの正体がエヴァだと知らない。

無論嗅覚で相手を見分けるタマモは正体を知っているが、流石にこの場で言うほど空気が読めない訳ではない。


「確かに知り合いって感じじゃないわよね」

さよの言葉に考え過ぎていた夕映もホッと胸を撫で下ろすが、無言のままのタマモは大人バージョンのエヴァを見てどこか心配そうだった。



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