平和な日常~秋~

賑やかな時間は過ぎてあっという間にいき、詠春は仕事があるからと店を後にするとその足でエヴァの自宅を訪れていた。

茶々丸がお茶を出す中で無言のまま向き合う二人の間には微妙な緊張感が漂っている。


「話は他でもありません。 ナギのことです」

茶々丸が部屋から居なくなると詠春は話を始めるが、エヴァはその内容に不愉快そうな表情を隠さなかった。


「知りたくありませんか? ナギの現状を」

「現状だと……」

淡々と語る詠春だが、エヴァは詠春の言葉に驚き信じられない表情で見つめる。


「あいつはまだ生きては居るんですよ。 生きてはね」

「……貴様とジジイは全て知っていたという訳か」

微妙な言い回しをする詠春に、エヴァは多少呆れた口調で冷静なまま答えていた。

その言い回しと口調でナギの現状をおおよそ推測できるエヴァは、今まで隠して来た詠春と近右衛門に複雑な心境を感じるなという方が難しい。

ただ二人の立場上言えなかっただろうことも一応理解している。

近右衛門に言われて呪いを解く術を探し始めて、地球の時間で約四ヶ月になる。

その間エヴァはボトル型魔法球の中で時間を引き伸ばして研究を続けていた。

ナギへの想いにも一応区切り付けた今ならば冷静に聞くことが出来ている。


「どこから話すべきでしょうか……」

エヴァが冷静なのを見届けた詠春は密かにホッと一息をつき昔話を始めた。

全ては二十年前の戦争終結時まで遡るその昔話にも、エヴァは呆れた表情を隠そうとはしなかった。

話は大戦の英雄となったナギとアリカに対する謀略から、完全なる世界の創造主が生きていたこと。

そして他人の肉体に乗り移り事実上の不死である存在だったことなど語るが、エヴァは興味がない様子である。


「くだらん話はいい。 奴は今どこでどうしてるのだ」

「……ナギは創造主として世界樹の地下に封印されてます」

その瞬間、エヴァの表情は冷静なまま固まってしまう。

流石の彼女もまさかナギが創造主として封印されてるなど、予想も出来なかった。


「灯台もと暗しとはこの国の言葉だったか? 傑作だな。 まさか麻帆良に居たとは……」

しばしの沈黙の後エヴァは多少自虐的な笑みを浮かべて反応を示すが、まさか麻帆良に居るとは思うはずもない。

ましてかつて戦っていた相手として封印されてるなど、誰が予想出来ようか。


「この件は関東と関西の幹部でもごく一部しか知らないことです。 タカミチ君ですら知らされてませんから。 貴女に関してもいつ教えるかでお義父さんと一緒に随分悩みました」

この時詠春はエヴァに罵倒されることも覚悟していた。

エヴァのナギへの思い入れを知る近右衛門や詠春としては、この十年いつ真実を告げるべきか散々悩んだのだから。

実際この段階で真実を打ち明けることは苦渋の決断だったことに変わりはない。

だがフェイト発見の事件あるし、万が一創造主の存在が外に漏れだして他からエヴァが真実を知られるのだけは避けねばならなかったのだ。



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