平和な日常~秋~
詠春が木乃香達と訪れたこの日の店は、いつもに増して賑やかになる。
木乃香の父親が来たということで偶然居合わせた中高生の常連が驚き騒いだからなのだが、実はこの時始めて木乃香が学園長の孫だと知った者も多かった。
麻帆良祭の写真の影響で《マスターの彼女》というあだ名が付いている木乃香は、横島に引きずられるように知名度を上げている。
しかし木乃香が学園長の孫だという事実はあまり広まって無かったのだ。
「うわ~、マスター逆玉じゃん」
「それよりそんなお嬢さまがなんで喫茶店でバイトしてるの?」
元々どこか箱入り娘のような雰囲気はあった木乃香だが、多くの常連達は流石に学園長の孫だとは思わなかったらしい。
まあそれだけ木乃香は立派に働いていたし、よく客と一緒に騒ぐ横島よりも働いているのではとの意見もある。
「うち元々は占い習うためにバイトを始めたんよ」
「なるほど、マスター占いも評判いいもんね」
常連の女子中高生に囲まれる木乃香と詠春だが、木乃香は少し苦笑いを浮かべてバイトを始めた経緯を話し出す。
本当は占いを習うつもりだったのに、いつの間にか料理にシフトしてしまったと笑ってしまう。
「正直占いは教えるほどの秘密のテクニックがある訳じゃないからな。 はっきり言えば占いそのものよりも話術とか人生経験とか人を見る目とか学ばないとダメだしさ~」
そのまま話は横島の占いに移るが、一般人を前に横島の占いの本質を語る訳にもいかずに言い訳に終始する。
実際占いの大半は人生相談や愚痴のようなものばかりであり、占いの技術よりもそんな話に対応することが必要だった。
横島も木乃香に何度か普通の占いの仕方は教えたが、それ以上に人を見る目などの経験が必要だと語っていたのだ。
一方の詠春は職業や仕事内容などを周りの少女達に質問されたりなどしていたが、木乃香と横島の占いの話には内心で少し複雑な心境だったことは確かだろう。
普通の女の子として育って欲しいと願った娘が、自ら魔法に近い世界に興味を持ち魔法関係者である横島と知り合ってしまった。
それには詠春も偶然以上の何かを感じずにはいられない。
(これが運命なのかも知れませんね)
近衛家の娘として生まれた木乃香は、いつか魔法を知り裏の世界を知る定めなのは確かだった。
生涯魔法を隠し通すなど不可能に近く、詠春やその妻もいずれ魔法の存在を明かすつもりではいる。
ただそれでも両親は木乃香に魔法協会を継がせることには否定的であり、魔法の存在は明かしても後継者にするつもりは無かった。
(今思えば私がナギと会った時もそうだ。 あいつが世界を救うなど、誰一人として想像もしなかった)
そしてこの時詠春は木乃香や明日菜と一緒に騒ぐ横島を見て、何故かナギと出会った頃を思い出してしまう。
無論木乃香が横島と出会ったことを運命だとは単純には思わないが、詠春はそれでもいつかこの出会いが意味を持つ可能性が僅かだがあることを直感的に感じていた。
平凡そうなその空間では幽霊や妖怪が何食わぬ顔をして一緒に騒ぐのだから、何処か懐かしさを感じてしまうのは確かだろう。
(ナギ、アリカ様、ガトウ……。 貴方達が作った時間は無駄では無かったのかもしれない……)
それは理屈ではなくただの詠春の直感である。
かつて仲間達が命を懸けて救った命と未来が、新たな未来として育つのではと詠春はそんな予感めいた期待をしてしまう。
それは横島が霊感と呼ぶ感覚に限りなく近いモノだと、この時知る者はいない。
和やかなその空間で詠春は、木乃香や明日菜の幸せそうな表情に幸せを感じつつ昔の仲間に思いを馳せていた。
木乃香の父親が来たということで偶然居合わせた中高生の常連が驚き騒いだからなのだが、実はこの時始めて木乃香が学園長の孫だと知った者も多かった。
麻帆良祭の写真の影響で《マスターの彼女》というあだ名が付いている木乃香は、横島に引きずられるように知名度を上げている。
しかし木乃香が学園長の孫だという事実はあまり広まって無かったのだ。
「うわ~、マスター逆玉じゃん」
「それよりそんなお嬢さまがなんで喫茶店でバイトしてるの?」
元々どこか箱入り娘のような雰囲気はあった木乃香だが、多くの常連達は流石に学園長の孫だとは思わなかったらしい。
まあそれだけ木乃香は立派に働いていたし、よく客と一緒に騒ぐ横島よりも働いているのではとの意見もある。
「うち元々は占い習うためにバイトを始めたんよ」
「なるほど、マスター占いも評判いいもんね」
常連の女子中高生に囲まれる木乃香と詠春だが、木乃香は少し苦笑いを浮かべてバイトを始めた経緯を話し出す。
本当は占いを習うつもりだったのに、いつの間にか料理にシフトしてしまったと笑ってしまう。
「正直占いは教えるほどの秘密のテクニックがある訳じゃないからな。 はっきり言えば占いそのものよりも話術とか人生経験とか人を見る目とか学ばないとダメだしさ~」
そのまま話は横島の占いに移るが、一般人を前に横島の占いの本質を語る訳にもいかずに言い訳に終始する。
実際占いの大半は人生相談や愚痴のようなものばかりであり、占いの技術よりもそんな話に対応することが必要だった。
横島も木乃香に何度か普通の占いの仕方は教えたが、それ以上に人を見る目などの経験が必要だと語っていたのだ。
一方の詠春は職業や仕事内容などを周りの少女達に質問されたりなどしていたが、木乃香と横島の占いの話には内心で少し複雑な心境だったことは確かだろう。
普通の女の子として育って欲しいと願った娘が、自ら魔法に近い世界に興味を持ち魔法関係者である横島と知り合ってしまった。
それには詠春も偶然以上の何かを感じずにはいられない。
(これが運命なのかも知れませんね)
近衛家の娘として生まれた木乃香は、いつか魔法を知り裏の世界を知る定めなのは確かだった。
生涯魔法を隠し通すなど不可能に近く、詠春やその妻もいずれ魔法の存在を明かすつもりではいる。
ただそれでも両親は木乃香に魔法協会を継がせることには否定的であり、魔法の存在は明かしても後継者にするつもりは無かった。
(今思えば私がナギと会った時もそうだ。 あいつが世界を救うなど、誰一人として想像もしなかった)
そしてこの時詠春は木乃香や明日菜と一緒に騒ぐ横島を見て、何故かナギと出会った頃を思い出してしまう。
無論木乃香が横島と出会ったことを運命だとは単純には思わないが、詠春はそれでもいつかこの出会いが意味を持つ可能性が僅かだがあることを直感的に感じていた。
平凡そうなその空間では幽霊や妖怪が何食わぬ顔をして一緒に騒ぐのだから、何処か懐かしさを感じてしまうのは確かだろう。
(ナギ、アリカ様、ガトウ……。 貴方達が作った時間は無駄では無かったのかもしれない……)
それは理屈ではなくただの詠春の直感である。
かつて仲間達が命を懸けて救った命と未来が、新たな未来として育つのではと詠春はそんな予感めいた期待をしてしまう。
それは横島が霊感と呼ぶ感覚に限りなく近いモノだと、この時知る者はいない。
和やかなその空間で詠春は、木乃香や明日菜の幸せそうな表情に幸せを感じつつ昔の仲間に思いを馳せていた。